第6章:計量 $g$ とホッジ・スター $\ast$ — 内積の召喚と次数の反転
§6.0 言い訳の終焉——内積を解放する
第2章で平行四辺形のスカラー面積を三つの射影面積の二乗和平方根として復元したとき、第3章で球の表面積 $4\pi R^2$ や円周の弧長 $2\pi R$ を同じ発想で測ったとき——本書ではこれまで、長さや面積を計算するたびに「計量(内積)をまだ正式には入れていない」と何度か断ってきた。
読者もそろそろくどいと感じている頃だろう。正直に言えば、筆者もそろそろ飽きてきた。
そもそも我々は、実空間 $(x,y,z)$ という直交デカルト座標の上で計算している。この空間ではピタゴラスの定理が成り立つ。そろそろ気兼ねなく、内積を使うことにしよう。
内積とは何か。すでに我々はこれと何度も遭遇している。第2章で向き付き面積を得たとき、3つの影の成分 $A_{yz}, A_{zx}, A_{xy}$ の二乗和の平方根をとれば小学校の面積に一致すると言った——あの「二乗和」こそ、自分自身との内積(の平方根)である。より一般に、縦ベクトル同士、あるいは横ベクトルとして表された $1$-form 同士について、対応する成分同士を掛けて足し合わせたスカラー量を、ここでは内積と呼ぶ。
……以上だ。おそらく多くの読者は高校数学で内積を習っているだろうから、「何を当たり前のことを」と思っていることだろう。しかし、本書では居心地が悪い思いをしながらも、今まで内積を正面から定義してこなかった。それには理由がある。
その理由は、内積を早く出しすぎると、これまで大事にしてきた区別が崩れてしまうからだ。
より進んだ立場では、「ベクトルの足し算・引き算」と「内積」は不可分ではなく、分けて考えることができる、と見る。この立場では「内積が入った空間」「入らない空間」を区別し、内積を定義するための行列を「計量テンソル」と呼ぶ。筆者もこの区別には敬意を払っている。だからこそ、これまで計量や内積をまだ正式には導入していない、と何度か断ってきたわけだ。
つまり、ここで本当に区別したいのは、「横ベクトル×縦ベクトルでスカラーを得る操作」と「同じ種類のベクトル同士で内積をとる操作」である。
注 (なぜ横と縦をここまで分けるのか)計量や内積を前面に出さなくても、かなり強力に物理を記述できる、という立場がある。たとえば、初等的な $n$-form の積分や、多くの学部レベルの物理計算では、その見方がよく働く。筆者はその立場も尊重している。一方で、長さ・角度・内積・ホッジ・スター $\ast$ を使う計量つきの見方も、もちろん強力である。筆者個人としては、問題に応じてこの二つの見方を行き来できることが理想だと考えている。そして行き来するためには、まず「横ベクトル×縦ベクトルで測る操作」と「同種ベクトル同士で内積をとる操作」を混同しないことが必要になる。本書が横ベクトルと縦ベクトルをしつこく分けてきたのは、そのためである。
第1章以来、我々は横ベクトル×縦ベクトルでスカラーを得る計算を山ほどやってきた。では、それと内積は何が違うのか。
結論から言えば、まったく別物だ。横ベクトル掛ける縦ベクトルは「横と縦という異種のベクトル間」の計算である。対して内積は「横と横」あるいは「縦と縦」という同種のベクトル間の計算だ。
そう、事は読者が思ったよりも深遠だ。実空間という特別な舞台では、この二つがたまたま同じ数値を返すことが多いために混同されてきた——その混同の上に、ベクトル解析という巨大な体系が築かれている。本章の目標は、この区別を明確にした上で、内積の自然な一般化として計量 $g$ を導き、そこからホッジ・スター $\ast$ の正体を暴くことである。
§6.1 パラメータ空間の内積——計量 $g$ の正体
6.1.1 実空間の内積
実空間 $(x,y,z)$ における二つの縦ベクトルを成分で書こう。
$$\mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix} x_1 \\ y_1 \\ z_1 \end{pmatrix},\qquad \mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ z_2 \end{pmatrix}$$同じ添字の成分同士を掛けて総和をとる操作を、本書では内積(ドット積)と定義し、記号 $\cdot$ で表す。
$$\mathbf{v}_1 \cdot \mathbf{v}_2 = x_1 x_2 + y_1 y_2 + z_1 z_2$$$xyz$ 座標での内積は、対応する成分同士を掛けて足し合わせるだけで計算できる。
6.1.2 内積を測定器として読み直す
ここで、同じ計算を「測定器」の言葉で読み直しておこう。内積は一見すると、これまで扱ってきた測定器とは別系統の演算に見える。しかし実は、内積もまた「あるものを測定器に変え、別のものに作用させてスカラーを得る」操作として読むことができる。
その入り口が転置である。$\mathbf{v}_1$ を転置すると、縦ベクトルは横ベクトルになる。
$$\mathbf{v}_1^T = \begin{pmatrix} x_1 & y_1 & z_1 \end{pmatrix}$$これは、ペアになる縦ベクトル $\mathbf{v}_2$ を食べて、「$\mathbf{v}_1$ との内積はいくらか」を測る測定器である。
$$\mathbf{v}_1^T\mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} x_1 & y_1 & z_1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ z_2 \end{pmatrix} = x_1x_2 + y_1y_2 + z_1z_2$$つまり、実空間の直交デカルト座標では、縦ベクトル $\mathbf{v}_1$ を転置するだけで、そのベクトルと内積をとるための横ベクトル——測定器——が得られる。
注 (添字の上げ下げの正体)テンソル解析では、ベクトル成分と測定器側の成分を、上付き添字・下付き添字で区別する流儀がある。そして計量 $g$ を使って添字を上げ下げする、と説明される。本書の言葉で言えば、その正体は「縦ベクトルを、内積を測る横ベクトルへ変換する」操作である。直交デカルト座標では $g=I$ なので転置だけで済むが、次に見るようにパラメータ空間では途中に $\mathbf{g}=J^T J$ を挟む必要が出てくる。
6.1.3 パラメータ空間で内積をとるには
では、同じ読み替えをパラメータ空間 $(r,\theta,z)$ で行うとどうなるか。
実空間の直交デカルト座標では、$\mathbf{v}_1^T$ がそのまま「$\mathbf{v}_1$ との内積を測る測定器」だった。だからパラメータ空間でも、$\mathbf{v}_1^T$ をそのまま測定器にしたくなる。しかしそれでは、$\Delta r_1 \Delta r_2 + \Delta\theta_1 \Delta\theta_2 + \Delta z_1 \Delta z_2$ を計算してしまうだけで、実空間での正しい内積にはならない。実空間とパラメータ空間のメモリの対応が場所によって異なるからである。
では、パラメータ空間の縦ベクトルを、実空間の内積を正しく測る横ベクトルに変えるには、何を挟めばよいか。
第4章で、座標変換のヤコビ行列が成分をどのように変換するかを見た。ここではその同じ行列 $J$ を使って、パラメータ空間の変位を実空間の変位として読む。
$$J = \begin{pmatrix} \frac{\partial x}{\partial r} & \frac{\partial x}{\partial \theta} & \frac{\partial x}{\partial z} \\ \frac{\partial y}{\partial r} & \frac{\partial y}{\partial \theta} & \frac{\partial y}{\partial z} \\ \frac{\partial z}{\partial r} & \frac{\partial z}{\partial \theta} & \frac{\partial z}{\partial z} \end{pmatrix}$$円柱座標の換算式 $x = r\cos\theta,\; y = r\sin\theta,\; z = z$ から偏微分を計算すれば:
$$J = \begin{pmatrix} \cos\theta & -r\sin\theta & 0 \\ \sin\theta & r\cos\theta & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$パラメータ空間のベクトル $\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2$ を成分で書く。
$$\mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix} \Delta r_1 \\ \Delta\theta_1 \\ \Delta z_1 \end{pmatrix},\qquad \mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} \Delta r_2 \\ \Delta\theta_2 \\ \Delta z_2 \end{pmatrix}$$これらを実空間の変位として読むと、それぞれ $J\mathbf{v}_1, J\mathbf{v}_2$ になる。実空間で「$J\mathbf{v}_1$ との内積」を測る測定器は、前節の読み方では $(J\mathbf{v}_1)^T$ である。したがって、求めたい内積は次の形で書ける。
$$\text{内積} = (J\mathbf{v}_1)^T (J\mathbf{v}_2)$$ここで転置の規則を使うと、$(J\mathbf{v}_1)^T = \mathbf{v}_1^T J^T$ だから、
$$= \mathbf{v}_1^T (J^T J) \mathbf{v}_2$$ここで $J^T J$ を実際に計算してみよう。$J^T$ は $J$ の行と列を入れ替えたものだ。
$$J^T = \begin{pmatrix} \cos\theta & \sin\theta & 0 \\ -r\sin\theta & r\cos\theta & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$したがって、
$$J^T J = \begin{pmatrix} \cos\theta & \sin\theta & 0 \\ -r\sin\theta & r\cos\theta & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \cos\theta & -r\sin\theta & 0 \\ \sin\theta & r\cos\theta & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$$\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$ という代数的恒等式がすべての幾何を代行し、対角成分に $1, r^2, 1$ が残る。$\theta$ 方向の弧の長さなど一度も考えていない——行列の積と転置の性質だけを使った、純粋に代数的な変形だ。
これで、新しい測定器が出てきた。 パラメータ空間の縦ベクトル $\mathbf{v}_1$ から、実空間での内積を正しく測る横ベクトルを作るには、単に転置するのではなく、右側に $J^T J$ を掛ければよい。
$$\omega_{\mathbf{v}_1} = \mathbf{v}_1^T (J^T J)$$そしてこの測定器を $\mathbf{v}_2$ に作用させれば、実空間での内積と同じ値が得られる。
この $J^T J$ を、計量行列 $\mathbf{g}$と呼ぶ。
$$\mathbf{g} = J^T J$$$xyz$ 座標では、そもそも「引き戻す」という操作を通らず、成分の積和だけで内積を計算していた。パラメータ空間に来ると、まず $J$ で実空間の変位として読み、その後で成分の積和をとる。この二段階を行列の形に畳み込むと、中央に $\mathbf{g}=J^T J$ が現れる——そしてその中身は、ヤコビ行列 $J$ さえ知っていれば、偏微分と行列の積だけで機械的に求まる。新しい幾何学の公理など、どこにも入り込む余地はない。
念のため、具体的な数値で確認しておこう。$r=2,\; \theta=\pi/3$ の地点を考える。このとき $\cos\theta = 1/2,\; \sin\theta = \sqrt{3}/2$ だから、
$$J = \begin{pmatrix} 1/2 & -\sqrt{3} & 0 \\ \sqrt{3}/2 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$パラメータ空間で $\mathbf{v} = \begin{pmatrix}0 \\ 1 \\ 0\end{pmatrix}$ という $\theta$ 方向の単位変位を考える。$\mathbf{g} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$ であり、いま $r=2$ だから $\mathbf{g} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 4 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$。パラメータ空間で内積(長さの二乗)を計算すると:
$$\mathbf{v}^T \mathbf{g} \,\mathbf{v} = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 4 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} = 4$$一方、同じ $\mathbf{v}$ を実空間の変位として読むと:
$$J\mathbf{v} = \begin{pmatrix} 1/2 & -\sqrt{3} & 0 \\ \sqrt{3}/2 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -\sqrt{3} \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}$$実空間での内積(長さの二乗)は $(-\sqrt{3})^2 + 1^2 + 0^2 = 4$。確かに一致している。$\mathbf{v} = \begin{pmatrix}1 \\ 0 \\ 0\end{pmatrix}$($r$ 方向の単位変位)でも同様に、$\mathbf{v}^T \mathbf{g} \,\mathbf{v} = 1$、$(J\mathbf{v})^T (J\mathbf{v}) = \cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$ で一致する。$\mathbf{g} = J^T J$ はこうして、パラメータ空間と実空間の内積を矛盾なく繫いでいる。
なお、ここでは円柱座標 $(r,\theta,z)$ で計算したが、球座標 $(r,\theta,\phi)$ の場合も同様に $J$ から $\mathbf{g}$ が求まる。
$$\mathbf{g}_{\text{球座標}} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & r^2\sin^2\theta \end{pmatrix}$$対角成分に $r^2$ と $r^2\sin^2\theta$ が現れるが、これらもすべて座標変換の一次係数を並べた $J$ から機械的に導かれる換算係数である。
この $g$ を仲立ちにすることで、どの座標系でも一貫して内積(長さ・角度)を計算できる。また、後半で扱うホッジ・スター $\ast$ の働きも、この内積のルールから自然に読み解ける。
§6.2 $g$ による縦ベクトルと横ベクトルの変換
6.2.1 $\mathbf{v}^T \mathbf{g}$ は横ベクトルである
§6.1 で導いた内積の式 $\mathbf{v}_1^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_2$ を、もう一度見てみよう。行列の積は左から順に実行できるから、この式は「まず $\mathbf{v}_1^T \mathbf{g}$ を計算し、その結果に $\mathbf{v}_2$ を掛ける」と読むことができる。
$\mathbf{v}_1$ は縦ベクトルだが、転置された $\mathbf{v}_1^T$ は横ベクトルだ。横ベクトルに正方行列を掛けると、結果は再び横ベクトルになる。つまり、$\mathbf{v}_1^T \mathbf{g}$ という部分だけを取り出せば、
$$\omega = \mathbf{v}^T \mathbf{g}$$これは $1 \times 3$ の横ベクトルである。計量 $g$ とは、内積の行列形式から自然に現れた、縦ベクトルを横ベクトルに変換する装置なのだ。
逆向きも書いておこう。横ベクトルとしての $1$-form
$$ \omega = \begin{pmatrix} \omega_1 & \omega_2 & \omega_3 \end{pmatrix} $$が与えられたとする。これに対応する縦ベクトル $\mathbf{v}_\omega$ は、
$$ \mathbf{v}_\omega = \mathbf{g}^{-1}\omega^T $$である。
注 (逆行列)正方行列 $A$ に対して、
$$ A^{-1}A = AA^{-1} = I $$を満たす行列 $A^{-1}$ を、$A$ の逆行列と呼ぶ。直感的には、$A$ による変換を元に戻す行列である。ここでは、$\mathbf{g}$ を使って作った横ベクトルをもとの縦ベクトルへ戻すために、$\mathbf{g}^{-1}$ を使っている。
実際、$\omega = \mathbf{v}^T\mathbf{g}$ なら、転置して
$$ \omega^T = \mathbf{g}^T\mathbf{v} $$となる。$\mathbf{g}$ は対称行列なので $\mathbf{g}^T = \mathbf{g}$。したがって、
$$ \mathbf{v} = \mathbf{g}^{-1}\omega^T $$で元に戻る。
実空間の直交デカルト座標では $\mathbf{g}=I$ なので、この逆向きの変換も単なる転置に見える。しかし一般の座標では、横ベクトルを縦ベクトルへ戻すために $\mathbf{g}^{-1}$ が必要になる。
注 (第2章で密輸していたもの)第2章で $2$-form の行列表現を探したとき、我々はすでに $\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$ という形を使っていた。あのときは「縦ベクトルを横に寝かせる操作は数学的には行儀が悪い」とだけ断って、深入りせずに押し通した。いま見ている $\mathbf{v}^T\mathbf{g}$ は、そのとき密輸していた操作の正体である。実空間では $\mathbf{g}=I$ なので、転置だけで縦ベクトルが横ベクトルに見えてしまう。しかしパラメータ空間では、実空間の内積を再現するように縦ベクトルを測定器としての横ベクトルへ変えるには、計量 $\mathbf{g}$ を明示的に通す必要がある。
この変換の意味を考えよう。第1章以来、我々は「測られる図形(縦ベクトル $\mathbf{v}$)」と「測る装置(横ベクトル $\omega$)」を区別してきた。両者は異なる世界の住人だった。しかし $g$ を経由することで、図形の側にいた縦ベクトルが、はかりの側——横ベクトル——へと姿を変える。同じ矢印でも、場所によって「はかりとしての感度」が変わるのは、$\mathbf{g}$ がその場所ごとの目盛りの違いをすべて吸収してくれるからだ。
実空間($\mathbf{g}=I$)では $\omega = \mathbf{v}^T$ であり、縦ベクトルの成分がそのまま横ベクトルの成分になる。パラメータ空間では $\mathbf{g} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$ なので、$\omega = \begin{pmatrix} \Delta r & r^2\Delta\theta & \Delta z \end{pmatrix}$。$\theta$ 成分だけ $r^2$ 倍されるのは、$\theta$ 方向の目盛りが $r$ 倍に伸びていることの反映だ。
$g$がなければ、「測られる図形」と「測る装置」を無理なく変換することはできない。$g$は両者を繫ぐ標準的な仲介者なのだ。
6.2.2 計量が与えるもの——平行 $k$ 面体の幾何学的な大きさ
計量 $g$ の最も基本的な役割は、$k$ 本のベクトルが貼る平行 $k$ 面体の実際の幾何学的な大きさ(長さ・面積・体積)を定義することである。
本書のこれまでの章では、$k$-form に $k$ 本のベクトルを食わせることで「向き付きの数え上げ」を行ってきた。$dx(\mathbf{v})$ は $\mathbf{v}$ の $x$ 成分という数、$dx \wedge dy(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2)$ は $\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2$ が張る平行四辺形の向き付き面積という数である。しかしこれらはあくまで影の測量であり、ベクトルたちがその計量のもとで何メートルの線分を張り、何平方メートルの平行四辺形を張っているかは、計量$g$が与えられて初めて決まる。
$k=1$(1本のベクトル $\mathbf{v}$ が張る線分)の場合、その長さの二乗は自分自身との内積で定義される。これは §6.1 ですでに導いた通りだ。
$$|\mathbf{v}|^2 = \mathbf{v}^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}$$実空間 $(\mathbf{g}=I)$ では $|\mathbf{v}|^2 = \Delta x^2 + \Delta y^2 + \Delta z^2$。円柱座標のパラメータ空間では $|\mathbf{v}|^2 = \Delta r^2 + r^2\Delta\theta^2 + \Delta z^2$。
$k=0$(0本のベクトル、すなわち点)の場合、$0$-form であるスカラー場 $f$ の「大きさ」は単にその絶対値 $|f|$ である。
$k=2$(2本のベクトルが張る平行四辺形の面積)および $k=3$(3本のベクトルが張る平行六面体の体積)についても、同じことだ。第2章 §2.4.7 で見たように、$dx \wedge dy, dy \wedge dz, dz \wedge dx$ という3つの基底 $2$-form の係数 $A_{xy}, A_{yz}, A_{zx}$ の二乗和の平方根 $\sqrt{A_{yz}^2 + A_{zx}^2 + A_{xy}^2}$ が、平行四辺形の符号なし面積を与える。$xyz$ 座標でこの計算に必要なのは基底 $2$-form の係数だけであり、それ以外の情報はいらない。
注 (なぜ $k=2$ ではベクトル表示しないのか)$k=1$ では $\mathbf{v}$ という縦ベクトルの内積 $\mathbf{v}^T\mathbf{g}\,\mathbf{v}$ として長さを書いた。$k=2$ での同様の内積——行列同士の内積(付録Dのフロベニウス積)——はまだ定義していない。さらに、$2$-form の係数を $3$ 成分のベクトルとして表示するには、次数を変換するホッジ・スター $\ast$ も必要になる。ここではまだ、面を面のまま、すなわち $2$-form の係数として扱っている。
計量 $g$ の役割は、この「$xyz$ での計算」をパラメータ空間のような目盛りの歪んだ座標系へ一般化することである。いずれの場合も、$g$ が決まれば、あらゆる次数の平行 $k$ 面体に一貫した幾何学的な大きさが定義できる——これが計量の最も根本的な役割である。
6.2.3 内積の性質
第5章で外微分 $d$ の性質(線形性・次数を上げる・$d^2=0$・ライプニッツ則)をまとめたのと同じように、内積についても、ここまでの計算から浮かび上がる性質を整理しておこう。これらは特定の座標系に依存しない。
- 対称性:$\mathbf{v}_1 \cdot \mathbf{v}_2 = \mathbf{v}_2 \cdot \mathbf{v}_1$。これを §6.1 で導いた行列の形 $\mathbf{v}_1^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_2$ に当てはめてみよう。$\mathbf{v}_2 \cdot \mathbf{v}_1 = \mathbf{v}_2^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_1$ だが、スカラーは転置しても変わらないから $\mathbf{v}_2^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_1 = (\mathbf{v}_2^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_1)^T = \mathbf{v}_1^T \mathbf{g}^T \mathbf{v}_2$。これが $\mathbf{v}_1^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_2$ と等しくなるには $\mathbf{g} = \mathbf{g}^T$ でなければならない。つまり、内積の対称性から、$\mathbf{g}$ は必ず対称行列になることが導かれる。
- 線形性(双線形性):$(a\mathbf{v}_1 + b\mathbf{v}_2) \cdot \mathbf{v}_3 = a(\mathbf{v}_1 \cdot \mathbf{v}_3) + b(\mathbf{v}_2 \cdot \mathbf{v}_3)$。各引数について線形。これは $(a\mathbf{v}_1 + b\mathbf{v}_2)^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_3 = a\mathbf{v}_1^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_3 + b\mathbf{v}_2^T \mathbf{g} \,\mathbf{v}_3$ という、行列の積の分配法則そのものである。
- 正定値性:$\mathbf{v} \cdot \mathbf{v} > 0$($\mathbf{v} \neq \mathbf{0}$)。「長さの二乗」が正であることを保証する。特殊相対論のように符号が混ざる場合はこの限りではないが、本書の舞台である3次元実空間ではつねに成り立つ。
注 (対称行列と反対称行列の対比)
第2章で面積の計量器が反対称行列($M = -M^T$)を要請したことと、ここで内積が対称行列($\mathbf{g} = \mathbf{g}^T$)を要請することは、ちょうど対をなしている。反対称が向き付きの数え上げを、対称な計量が長さ・角度、そしてそこから誘導される符号なし面積・体積を司る。
6.2.4 計量行列の幾何を成分に宿らせる
$\mathbf{g}$ の対角成分は「その軸方向の一歩が長さにどれだけ効くか」、非対角成分は「異なる軸方向の一歩が互いにどれだけ干渉するか」を表す。円柱座標の $\mathbf{g}$ が対角行列だったのは、$r,\theta,z$ の各軸が互いに直交しているからだ。いずれにせよ、$\mathbf{g}$ という一個の行列が、その場所での「ものさしの性質」のすべてを成分として担っている。
注 (公理的な内積——公理と行列の順序逆転)標準的な線形代数の教科書では、まず上記の3性質を公理として定義し、その後に「これらを満たす演算は、ある基底を選べば必ず対称行列 $\mathbf{g}$ を用いた $\mathbf{v}^T \mathbf{g} \mathbf{w}$ の形で書ける」という定理を導く。論理の順番が我々とは逆だ。公理的な立場では行列表示は一表現に過ぎないが、測定器として読む本書の立場ではこの行列 $\mathbf{g}$ こそが空間の目盛りそのものであり、すべての測定の出発点である。どちらが正しいかではない。抽象的な性質から入るか、具体的なシンボルの操作による測り方から入るか。向いている方向が違うだけだ。
【ここまでのチェックポイント — §6.0–§6.2】
- 内積とは、同種のベクトル間(横×横、または縦×縦)で成分の積和をとる演算。横×縦とは別物。
- パラメータ空間での内積は、実空間へ引き戻してから計算する。その過程で $J^T J$ が自然に現れる。これが計量 $g$ の正体。
- $g$ は縦ベクトルを横ベクトルに変換する。具体的には、縦ベクトル $\mathbf{v}$ から対応する $1$-form を作るには $\omega_{\mathbf{v}} = \mathbf{v}^T\mathbf{g}$ とする。
- 逆に、横ベクトルとしての $1$-form $\omega$ から対応する縦ベクトルを作るには、$\mathbf{v}_\omega = \mathbf{g}^{-1}\omega^T$ とする。デカルト座標では $\mathbf{g}=I$ なので、どちらもほとんど転置だけに見える。
- $g$ を仲立ちに、あらゆる次数の平行 $k$ 面体の幾何学的な大きさが定義できる。
- 内積の性質(対称性・線形性・正定値性)から $g$ の対称性が導かれる。これは面積測定器 $\wedge$ の反対称性と対をなす。
§6.3 ホッジ・スター $\ast$ ——二つの方法を繫ぐ対応
6.3.1 スカラーを得る二つの方法
ここまでで $g = J^T J$ の正体が明らかになり、内積をどの座標系でも計算できるようになった。ここで、より大きな構図を見ておこう。
物理の式を眺めると、スカラー量を作るやり方が一つではないことに気づく。ある場を線や面に沿って積分するときは、「測るもの」が「測られるもの」に作用して数を返す、という書き方が自然に現れる。一方で、仕事率やエネルギー密度のような量は、しばしば $\mathbf{E}\cdot\mathbf{J}$ や $\mathbf{A}\cdot(\nabla\times\mathbf{A})$ のように、同じ種類の矢印同士の内積として書かれる。
つまり世の中の物理記法には、少なくとも見かけ上、スカラーを得る二つの流儀が併存している。本書の言葉で言えば、それは次の二つである。
- 方法①(微分形式の方法 / dの方法):測る装置(横ベクトル:$1$-form など)と、測られる図形(縦ベクトル:ベクトル場など)を用意し、横×縦の計算でスカラーを得る。この計算で使うのは、形式がベクトルを食べてスカラーを返すという、作用と評価の論理である。
- 方法②(ベクトル解析の方法 / ∇の方法):すべての量を「同じ種類の矢印」に統一し、同種ベクトル間の内積(縦×縦、または横×横)でスカラーを得る。この計算では、同種ベクトル同士を比べるために計量 $g$ を挟む。多くの読者は学校教育を通じてこちらの方法に慣れ親しんでいるだろう。
注 (二つの方法の呼び方——筆者の苦悩)筆者はこの二つの流儀を教科書でどう呼ぶか長らく悩んだ。方法①を「微分形式の方法」と呼ぶのが素直だろうが、本書では「dの方法」とも併記することにした。なぜなら、微分形式を知らない読者にとっては、dという記号の方が親しみやすいからだ。筆者は個人的に「トポロジーの方法」とも呼んでいる。トポロジーや幾何学の文脈で育った読者には、そちらの呼び方の方がしっくりくるだろう。同様に、方法②を「ベクトル解析の方法」と呼ぶのが素直だろうが、本書では「∇の方法」とも併記することにした。∇(ナブラ)という記号は、物理学を学んだ読者にとって最も馴染み深い記号だからだ。筆者は個人的に「内積の方法」とも呼んでいる。内積の構造が核心に据わっていることを強調したいときに使う。どれも同じ二つの流儀を指している。
注 (二つの記法の系譜)方法①はグラスマンの外積代数やエリ・カルタンの流れに近く、方法②はギブズやヘヴィサイドが整備したベクトル解析の流れに近い。どちらかが正しく、どちらかが誤りという話ではない。
実は、どちらの方法を採用しても、最終的に得られる物理的な結果は同じになる。これは単なる表現の違いだ。
しかしここに実務上の問題が生じる。方法②の枠組みでは、本来「面」で測るべき量($2$-form)も「線」で測る量($1$-form)も、すべて同じ「$3$ 成分の矢印」として扱われる。方法①における面積や体積の概念を、方法②の「矢印同士の内積」の枠組みで扱うには、次数の異なる形式どうしを結びつける対応が必要になる。
$k$-form の独立成分数には、特徴的な対称性があった。第2章 §2.5.9 で見たように、$3$ 次元空間では $0$-form が $1$ 成分、$1$-form が $3$ 成分、$2$-form も $3$ 成分、$3$-form が $1$ 成分——真ん中を折り目にして、$1, 3, 3, 1$ と左右対称になっている。独立成分数が同じ $1$-form と $2$-form、$0$-form と $3$-form のあいだには、何らかの対応関係が存在するはずだ。その対応を与える装置こそが、ホッジ・スター $\ast$である。
$\ast$ は、内積の情報(すなわち $g$)を使って、ある形式に対し、それと組み合わせれば体積になる相手を対応させる。まず本文では実空間の基底でこの対応を作り、成分表示としての確認は付録Dに回そう。
注 (二つの方法のあいだで)方法①と方法②のどちらか一方だけを使う必要はない。筆者の理想は、両方を自由に行き来できることだ。本書が方法①(微分形式)から出発したのは、空間の歪みに依存しない強固な土台を築くためである。その上で、必要に応じて方法②の言葉でも同じ量を読めるようにする——その橋渡しをするのが $\ast$ だ。
注 (ベクトル解析を知っている読者へ)通常のベクトル解析で面の向きや外積として扱われる操作の多くは、この $\ast$ が与える対応として読み直せる。ただし本章では、それらを既知の公式として使うのではなく、$g$ と第2章の基底 $2$-form から作り直す。
6.3.2 実空間での $\ast$ 辞書——体積になる相手を選ぶ
では、$\ast$ はどのように決まるのか。
ここではまず、実空間 $(x,y,z)$ の直交デカルト座標で考える。この空間では、$dx,dy,dz$ は互いに直交し、長さ $1$ の基準測定器である。また、空間の向きを
$$ dx \wedge dy \wedge dz $$が正の体積形式になるように決めておく。
$\ast$ は、ある形式に対して、それと組み合わせれば体積形式になる相手を返す操作だと考えればよい。
たとえば $dx$ と組み合わせて正の体積形式を作る $2$-form は何か。それは $dy \wedge dz$ である。実際、
$$ dx \wedge dy \wedge dz $$が得られる。したがって、
$$ \ast dx = dy \wedge dz $$と決めるのが自然である。
同じように、
$$ dy \wedge dz \wedge dx = dx \wedge dy \wedge dz $$なので、
$$ \ast dy = dz \wedge dx $$であり、
$$ dz \wedge dx \wedge dy = dx \wedge dy \wedge dz $$なので、
$$ \ast dz = dx \wedge dy $$である。
つまり、$\ast$ はそれぞれの線の測定器に対して、それと組み合わせると正の体積形式になる面の測定器を対応させている。同じ考えで、スカラー $1$ は体積形式 $dx \wedge dy \wedge dz$ と対応し、体積形式はスカラー $1$ と対応する。
したがって、実空間での $\ast$ の辞書は次のようになる。
$$\begin{aligned} \ast(1) &= dx \wedge dy \wedge dz, \qquad &\ast(dx \wedge dy \wedge dz) &= 1 \\ \ast(dx) &= dy \wedge dz, \qquad &\ast(dy \wedge dz) &= dx \\ \ast(dy) &= dz \wedge dx, \qquad &\ast(dz \wedge dx) &= dy \\ \ast(dz) &= dx \wedge dy, \qquad &\ast(dx \wedge dy) &= dz \end{aligned}$$この時点では、$\ast$ を「対応表」として読めば十分である。ただし、この対応は単なる暗記表ではない。基底を選べば、$\ast$ は係数を並べ替える線形変換として配列表示できる。全次数を含む配列表現は付録Dで確認する。
この辞書の意味するところは単純だ。$x$ 軸方向の線分($dx$)に対応するのは、$x$ 軸に垂直な面($dy \wedge dz$)である。同様に $y \leftrightarrow dz \wedge dx$、$z \leftrightarrow dx \wedge dy$。そしてスカラー $1$($0$-form)と体積 $dx \wedge dy \wedge dz$($3$-form)が互いに対応する。これがまさに、第2章で見た独立成分数 $1, 3, 3, 1$ の対称性の現れである。
注 (なぜこの辞書でよいのか)$\ast dx = dy \wedge dz$ となるのは、$dx,dy,dz$ が正規直交基底(互いに直交し、長さ $1$)であり、かつ空間の向きを $dx \wedge dy \wedge dz$ が正となる右手系にとっているからだ。この条件のもとでは、上の辞書が一意的に定まる。パラメータ空間まで考慮すると、$\ast$ の辞書は計量 $g$ と空間の向きの選び方に依存する——言い換えると、$g$ が $I$ でなければ、辞書の係数はもっと複雑になる。
6.3.3 $\ast\ast = \mathrm{id}$
上の辞書から直ちにわかるように、$\ast$ を二度続けて作用させると元に戻る:
$$\ast(\ast(dx)) = \ast(dy \wedge dz) = dx$$一般に、3次元デカルト実空間では $\ast\ast = \mathrm{id}$(恒等演算子)が成り立つ。$\ast$ を $1$ 回適用すれば形式の次数が反転し、$2$ 回適用すれば元に戻る。
【ここまでのチェックポイント — §6.3】
- スカラーを得る方法には二つある。方法①は横×縦の作用でスカラーを得る。方法②は同種ベクトルの内積として読み、そこに計量 $g$ が現れる。
- 第2章で見た $1,3,3,1$ の対称性は、独立成分数が同じ $1$-form と $2$-form のあいだに対応をつけられることを示唆している。
- ホッジ・スター $\ast$ は、ある形式に対して、それと組み合わせれば正の体積形式になる相手を返す。実空間での辞書は $\ast dx = dy \wedge dz$ などである。
- この辞書は単なる暗記表ではなく、基底を選べば線形変換として配列表示できる。配列表現の詳細は付録Dで確認する。
- $\ast\ast = \mathrm{id}$ は、この辞書から直ちに従う。
6.3.4 $\ast$ の性質
§6.2.3 で内積の性質を、第5章で外微分 $d$ の性質をまとめたのに倣い、$\ast$ についてもここまでの構成から浮かび上がる性質を整理しておく。
- 次数の反転:3次元空間において、$\ast$ は $0$-form $\leftrightarrow$ $3$-form を、$1$-form $\leftrightarrow$ $2$-form を対応させる。一般に $k$-form を $(3-k)$-form へ送る。
- 線形性:$\ast(\omega_1 + \omega_2) = \ast\omega_1 + \ast\omega_2$。$\ast$ は基底に対する辞書を係数つきで線形に延長する操作であり、線形性は自明である。配列表現の詳細は付録Dで確認する。
- 内積との対応:同じ次数の形式 $\alpha,\beta$ に対して、$\alpha$ と $\ast\beta$ をウェッジ積で組み合わせると、$\alpha$ と $\beta$ の内積を係数にもつ $3$-form が得られる。デカルト座標では、
である。ここで $\alpha\cdot\beta$ は、同じ次数の形式どうしの内積を表す。$1$-form どうしなら成分の積和、$2$-form どうしなら付録Dで見るフロベニウス積である。この式は、$\ast$ が「内積で得られるスカラー」と「ウェッジ積で得られる $3$-form」を繫いでいることを表している。
注 (より進んだ定義との関係)より進んだ教科書では、$\alpha\wedge\ast\beta=(\alpha\cdot\beta)\,dx\wedge dy\wedge dz$ を $\ast$ の定義として採用することが多い。本書では先に基底ごとの辞書と配列表示を作ったが、それはこの定義をデカルト座標で具体化したものになっている。
- $\ast\ast = \mathrm{id}$:二度作用させると元に戻る(§6.3.3)。これは正規直交基底かつ右手系という条件のもとで成り立ち、付録Dでは反対称行列とフロベニウス積を通じて代数的にも確認できる。
- 計量 $g$ への依存:$\ast$ の辞書は空間の計量 $g$ によって決まる。デカルト座標($g=I$)では §6.3.2 の簡潔な辞書で済むが、一般の座標系では $\ast$ の係数は場所の関数になる。この一般の場合については第9章で詳しく扱う。
これらの性質は、$\ast$ が単なる「辞書」ではなく、計量と向きを備えた空間における次数の折り返し構造そのものであることを示している。
§6.4 対応の実例——微分形式とベクトル解析
6.4.1 ジュール熱 $P=VI$ ——二つの経路
$\ast$ が具体的にどのように微分形式と同種ベクトルの内積表示を繫いでいるか、実際の計算で確かめよう。この節の目的は、電磁気学やベクトル解析の公式を学ぶことではない。$\ast$ を使うと、微分形式で自然に得られる量が、スカラー積やベクトル解析の記法に読み替えられることを、二つの例で眺めることである。
注 (電磁気学やベクトル解析を知らなくてよい)ここから先、説明のために電磁気学やベクトル解析の記号を少し先取りして使う。$E$ や $J$ が何を表すか、あるいは $\mathbf{A}\cdot(\nabla\times\mathbf{A})$ が何を意味するかを、今すぐ理解する必要はない。ここで見たいのは、微分形式で自然に出てくる $3$-form が、ホッジ・スター $\ast$ を通じて、スカラーや内積の形に読み替えられるという一点である。ベクトル解析の記法との関係は、このあと少しだけ見えるが、本格的な整理は後の章に回す。
高校物理で学ぶ「電力 = 電圧 × 電流($P=VI$)」を、空間の各点で起こる現象として見直す。
- 電圧の起源である電場 $E$ は、線分に沿って数え上げる $1$-form である。
- 電流の起源である電流密度 $J$ は、面を貫く電荷を数え上げる $2$-form である。
まず、方法①(微分形式)で計算してみよう。$1$-form $E$ と $2$-form $J$ のウェッジ積をとる。
$$E \wedge J$$$1$-form と $2$-form のウェッジ積は $3$-form(体積密度)になる。これは「単位体積あたりの電力(W/m³)」を意味する。これを空間領域で積分($\int_V E \wedge J$)すれば、空間全体の消費電力(ワット)が得られる。この経路で使っているのは、$1$-form と $2$-form をウェッジ積で $3$-form にする操作だけである。
次に、方法②(同種ベクトルの内積)で同じ計算をどう行うか見てみよう。$E$ と $J$ をどちらも $1$-form のように扱って内積をとるには、面を測る $J$ を $\ast$ で線を測る形式へ変換する:
$$\text{ベクトル } J \longleftrightarrow \ast J$$これで $E$ と $\ast J$ という二つの $1$-form が揃った。これらの内積(ドット積)をとる。微分形式で $1$-form の内積を書くには、一方に $\ast$ をかけて $2$-form にし、ウェッジ積で $3$-form にしてから、全体に $\ast$ で $0$-form に落とす:
$$E \cdot J \longleftrightarrow \ast(E \wedge \ast(\ast J))$$ここで $\ast\ast = \mathrm{id}$ により、内側の $\ast(\ast J) = J$ となる:
$$\ast(E \wedge J)$$カッコの中身 $E \wedge J$ は、方法①で得た $3$-form と全く同じものだ。外側の $\ast$ は、$3$-form から体積 $dx \wedge dy \wedge dz$ を剥ぎ取り、スカラー値を取り出している。スカラー $E \cdot J$ に微小体積 $dV$ を掛け直して積分する書き方は、この $3$-form が持っていた体積を後から補っている、と読める。
つまり、$\ast$ は方法①の $3$-form と方法②のスカラー表示を矛盾なく繫いでいる。 $\ast\ast = \mathrm{id}$ があるからこそ、どちらの経路を通っても同じ結果に至るのだ。
6.4.2 ヘリシティ $A \cdot (\nabla \times A)$ ——$\ast$ の往復
もう一つの例で、$\ast$ の働きをさらに見てみよう。$1$-form $\alpha$ と、その外微分 $d\alpha$ を組み合わせた次の $3$-form を考える:
$$\alpha \wedge d\alpha$$この形は、方法②の言葉で書けば、ベクトル場 $\mathbf{A}$ とその回転の内積として現れる。
$$\mathbf{A} \cdot (\nabla \times \mathbf{A})$$ここで $\mathbf{A}$ に対応する $1$-form を $\alpha$ と書く。$d\alpha$ はまず $2$-form として得られ、方法②の言葉では $\ast d\alpha$ という $1$-form と対応する。
まず方法①で計算する。$1$-form $\alpha$ と $2$-form $d\alpha$ のウェッジ積:
$$\alpha \wedge d\alpha$$$1$-form と $2$-form のウェッジ積は $3$-form。この経路では、$\alpha$ と $d\alpha$ をそのままウェッジ積で組み合わせている。
次に方法②で同じ計算の内部構造を見る。同種ベクトルの内積として読むには、$2$-form $d\alpha$ をそのまま置けないので、$\ast d\alpha$ という $1$-form を対応させる:
$$\nabla \times \mathbf{A} \longleftrightarrow \ast d\alpha$$これで $\alpha$ と $\ast d\alpha$ という二つの $1$-form が揃った。内積をとる:
$$\mathbf{A} \cdot (\nabla \times \mathbf{A}) \longleftrightarrow \ast(\alpha \wedge \ast(\ast d\alpha))$$$\ast\ast = \mathrm{id}$ により内側の $\ast(\ast d\alpha) = d\alpha$。したがって、
$$\ast(\alpha \wedge d\alpha)$$カッコの中身は、方法①の $3$-form $\alpha \wedge d\alpha$ と同じものだ。外側の $\ast$ 体積を剥ぎ取り、スカラー値を取り出している。
ここで注目すべきは、$\ast$ が $2$ 回現れて、$\ast\ast = \mathrm{id}$ により打ち消し合っていることだ。 方法②の内部では、$d\alpha$($2$-form)に対応する $1$-form として $\ast d\alpha$ を使い、内積をとるために再び $\ast$ を呼び出している。この往復が、$\ast\ast = \mathrm{id}$ によって帳消しになるのである。
注 ($\ast$ の往復が起きる理由)ベクトル解析は「形式の次数」という概念を持たず、すべてを「$3$ 成分の矢印」として統一的に扱う。$2$-form を矢印として読むには $\ast$ で対応する $1$-form を作る必要があり、内積計算のためにはまた $\ast$ で元の次数へ戻る必要がある。$\ast$ とは、この二つの表し方を結ぶ一つの対応なのである。
【ここまでのチェックポイント — §6.4】
- ジュール熱の計算では、方法①($E \wedge J$)と方法②($E \cdot J = \ast(E \wedge J)$)が $\ast$ を通じて一致する。
- ヘリシティの計算では、$\ast$ が $2$ 回使われ $\ast\ast = \mathrm{id}$ で打ち消し合う。方法①($\alpha \wedge d\alpha$)と方法②($\mathbf{A} \cdot (\nabla \times \mathbf{A})$)は同じ結果を与える。
- $\ast$ は微分形式とベクトル解析を繫ぐ対応であり、$\ast\ast = \mathrm{id}$ が往復の整合性を保証している。
§6.5 三つの演算の型——grad, rot, div
ここまでで $d$(第5章)と $\ast$(本章)という二つの演算子が揃った。この二つを組み合わせると、形式の次数をさまざまに移動させる操作を作ることができる。
その中でも、三次元のベクトル解析で特に名前を持つものがある。
$$ 0 \to 1,\qquad 1 \to 2 \to 1,\qquad 1 \to 2 \to 3 \to 0 $$という三つの型である。
本書ではこれらを、それぞれ
$$ \mathrm{grad},\qquad \mathrm{rot},\qquad \mathrm{div} $$と呼ぶことにする。
本章では、これら三つの型に名前をつけるところまでに留める。通常の $\nabla f$、$\nabla\times\mathbf F$、$\nabla\cdot\mathbf F$ との対応は、後の章で改めて扱う。
注 (ベクトル解析を知っている読者へ)ここまで来ると、通常の $\nabla f$、$\nabla\times\mathbf F$、$\nabla\cdot\mathbf F$ が背後に見えているかもしれない。ただし本章では、通常のベクトル解析記法を正式には展開しない。ここでは、「$d$ と $\ast$ を組み合わせた中から、grad, rot, div に相当する三つの型を取り出す」という道筋を確認する。通常のナブラ記法、ストークスの定理との対応、曲線座標で公式が長くなる理由は、後の章で改めて扱う。
以降、本節ではまずデカルト座標で考える。$1$-form
$$ \omega = P\,dx + Q\,dy + R\,dz $$を用いる。ベクトル解析を知っている読者は、これを成分 $(P,Q,R)$ を持つ場に対応するものとして読んでよい。ただし、この対応の本格的な整理は後の章に回す。
6.5.1 勾配 $\mathrm{grad}\,f = df$
$0$-form(スカラー場)$f$ の外微分 $df$ は $1$-form である。
$$ df = \frac{\partial f}{\partial x}\,dx {}+ \frac{\partial f}{\partial y}\,dy {}+ \frac{\partial f}{\partial z}\,dz $$本書ではこれを、勾配の $1$-form 表示と呼び、
$$ \mathrm{grad}\,f = df $$と書く。
$d$ は次数を $0 \to 1$ に上げる。これが、この章で必要な勾配の姿である。通常のベクトル解析で $\nabla f$ と書かれる縦ベクトル表示との関係は、後の章で改めて整理する。
6.5.2 回転 $\mathrm{rot}\,\omega = \ast\,d\,\omega$
$1$-form
$$ \omega = P\,dx + Q\,dy + R\,dz $$に $d$ を作用させると、$2$-form $d\omega$ が得られる。
$$d\omega = (\frac{\partial R}{\partial y} - \frac{\partial Q}{\partial z})\,dy \wedge dz + (\frac{\partial P}{\partial z} - \frac{\partial R}{\partial x})\,dz \wedge dx + (\frac{\partial Q}{\partial x} - \frac{\partial P}{\partial y})\,dx \wedge dy$$ここに $\ast$ を作用させると、$2$-form が再び $1$-form に戻る。
$$\ast(d\omega) = (\frac{\partial R}{\partial y} - \frac{\partial Q}{\partial z})\,dx + (\frac{\partial P}{\partial z} - \frac{\partial R}{\partial x})\,dy + (\frac{\partial Q}{\partial x} - \frac{\partial P}{\partial y})\,dz$$本書ではこの $1$-form を回転の $1$-form 表示と呼び、
$$\mathrm{rot}\,\omega = \ast\,d\,\omega$$と書く。
$\ast\,d$ は
$$ 1 \to 2 \to 1 $$という次数の遷移を持つ。この「一度面に上がってから線に戻る」構造が、回転に対応する。通常のベクトル解析で $\nabla\times\mathbf F$ と書かれるものとの関係は、後の章で改めて扱う。
6.5.3 発散 $\mathrm{div}\,\omega = \ast\,d\,\ast\,\omega$
$1$-form $\omega$ にまず $\ast$ を作用させると、$2$-form になる。そこに $d$ を作用させると、$3$-form になる。最後にもう一度 $\ast$ を作用させると、$0$-form、つまりスカラー場に戻る。
$$ \ast d\ast\omega $$デカルト座標で計算すれば、
$$\ast(d(\ast\omega)) = \frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y} + \frac{\partial R}{\partial z}$$となる。
本書ではこの $0$-form を発散と呼び、
$$\mathrm{div}\,\omega = \ast\,d\,\ast\,\omega$$と書く。
$\ast\,d\,\ast$ は
$$ 1 \to 2 \to 3 \to 0 $$という次数の遷移を持つ。通常のベクトル解析で $\nabla\cdot\mathbf F$ と書かれるものとの関係は、後の章で改めて扱う。
6.5.4 $d^2 = 0$ の影
第5章で学んだ $d^2 = 0$ を思い出そう。この一つの事実から、三つの演算のあいだに関係が生まれる。
まず、
$$ \mathrm{rot}(\mathrm{grad}\,f) = \ast d(df) = \ast(d^2 f) = 0 $$である。
また、
$$ \mathrm{div}(\mathrm{rot}\,\omega) = \ast d\ast(\ast d\omega) = \ast d(d\omega) = \ast(d^2\omega) = 0 $$である。
ここでは、これらを形式側の恒等式として眺めるに留める。ベクトル解析を知っている読者には、通常の恒等式との対応が見えているだろう。しかし本書では、通常のナブラ記法としての意味づけは後の章で改めて行う。
§6.6 ベクトル解析へ向けて
第5章で外微分 $d$ を、本章で計量 $g$ とホッジ・スター $\ast$ を手に入れた。これで、形式の世界からベクトル解析へ向かうための主要な道具が揃った。
本章で確認したのは、$d$ と $\ast$ の組み合わせの中から、三次元ベクトル解析で grad, rot, div と呼ばれる三つの型を取り出せる、ということである。
ここで得た対応を表にしておこう。
| 演算 | 本書の分解 | 次数の遷移 | $\ast$ の使用回数 |
|---|---|---|---|
| $\mathrm{grad}$ | $d$ | $0 \to 1$ | 0回 |
| $\mathrm{rot}$ | $\ast\,d$ | $1 \to 2 \to 1$ | 1回 |
| $\mathrm{div}$ | $\ast\,d\,\ast$ | $1 \to 2 \to 3 \to 0$ | 2回 |
ここまでで、ナブラ記法の背後にある構造のかなりの部分が見えてきた。ただし、本章ではまだ通常のベクトル解析を正式には展開していない。
ベクトル解析を知っている読者には、ここから通常の $\nabla$ 記法が立ち上がってくることが見えているかもしれない。しかし本書では、ここで急がない。通常のナブラ記法としての整理は、次章以降で改めて行う。
次章以降では、ここで得た $d$、$g$、$\ast$ を使って、通常のベクトル解析の記法へ戻っていく。ストークスの定理、ガウスの発散定理、曲線座標で公式が長くなる理由も、この道具立てから改めて読み直す。
注 (計量の符号を一つ変えるだけで)本章では正定値計量($\mathbf{v}^T \mathbf{g} \,\mathbf{v} > 0$ for $\mathbf{v} \neq 0$)を前提とした。しかし特殊相対性理論の舞台である $4$ 次元時空では、時間成分だけ符号が反転した $\mathbf{g} = \begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$ のような不定計量が登場する。本書は $3$ 次元デカルト実空間に固定しているためこれ以上踏み込まないが、本章で学んだ「行列 $\mathbf{g}$ を挟む」という発想は、そのまま $4$ 次元時空へと拡張可能である。必要になったとき、読者はこの章に立ち返ってほしい。
【ここまでのチェックポイント — 第6章全体】
- 内積とは、同種のベクトル間(横×横、または縦×縦)で成分の積和をとる演算。横×縦の計算とは別物である。
- 実空間では内積の行列は単位行列 $I$。パラメータ空間では $\mathbf{g}=J^T J$ により、座標変換の一次係数から求まる。すなわち計量 $g$ とは、実空間へ引き戻して内積をとったとき、中央に現れる行列に他ならない。
- $\mathbf{v}^T \mathbf{g}$ は縦ベクトルを横ベクトルに変換し、$\mathbf{g}^{-1}\omega^T$ は横ベクトルを縦ベクトル表示へ戻す。$g$ がなければ物体と計器は互いに変換不能である。
- スカラーを得る方法には二つある:方法①(横×縦)と方法②(同種ベクトルの内積)。ホッジ・スター $\ast$ は両者を繫ぐ対応である。
- $\ast$ は、ある形式に対して、それと組み合わせれば正の体積形式になる相手を返す。実空間での辞書は $\ast dx = dy \wedge dz$ などであり、$\ast\ast = \mathrm{id}$ を満たす。
- ジュール熱とヘリシティの計算例は、方法①と方法②が $\ast$ と $\ast\ast = \mathrm{id}$ を通じて同じ結果を与えることを示している。
- 第6章では、$\mathrm{grad}=d$、$\mathrm{rot}=\ast\,d$、$\mathrm{div}=\ast\,d\,\ast$ という三つの型が現れることを確認した。通常のナブラ記法としての整理は次章以降で行う。
- $d^2=0$ から、形式側では $\mathrm{rot}(\mathrm{grad}\,f)=0$ と $\mathrm{div}(\mathrm{rot}\,\omega)=0$ が現れる。通常のベクトル解析での意味づけは後の章で改めて扱う。
付録D:ホッジ・スターの配列表示
§6.3.2 では実空間の $\ast$ 辞書を与えた。この付録では、その辞書が配列操作としてどう見えるかを確認する。ホッジ・スターは抽象的な記号ではなく、基底を選べば具体的な配列として表示できる線形変換である。まず $1$-form $\leftrightarrow$ $2$-form の対応を反対称行列で見て、最後に $0$-form $\leftrightarrow$ $3$-form の対応を三階配列で見る。
D.1 $\ast_{1\to2}$ ——三つの係数を反対称行列へ置く
$1$-form
$$ \omega = \begin{pmatrix}P & Q & R\end{pmatrix} = P\,dx + Q\,dy + R\,dz $$に本文の辞書
$$ \ast dx = dy \wedge dz,\qquad \ast dy = dz \wedge dx,\qquad \ast dz = dx \wedge dy $$を適用すると、
$$ \ast\omega = P\,dy\wedge dz + Q\,dz\wedge dx + R\,dx\wedge dy $$である。第2章の反対称行列表現では、$dy\wedge dz$ を表す行列を
$$ E_1 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix} $$とおく。同様に、$dz\wedge dx$ を表す行列を
$$ E_2 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$とおき、$dx\wedge dy$ を表す行列を
$$ E_3 = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$とおく。
したがって、
$$ \ast_{1\to2} = \begin{pmatrix} E_1\\ E_2\\ E_3 \end{pmatrix} $$という「行列の縦ベクトル」として見られる。$1$-form $\omega=\begin{pmatrix}P&Q&R\end{pmatrix}$ を左から掛けると、
$$ \omega\,\ast_{1\to2} = \begin{pmatrix}P&Q&R\end{pmatrix} \begin{pmatrix} E_1\\ E_2\\ E_3 \end{pmatrix} = P E_1+Q E_2+R E_3 $$である。よって
$$ \ast_{1\to2}(\omega) = \begin{pmatrix} 0 & R & -Q \\ -R & 0 & P \\ Q & -P & 0 \end{pmatrix} $$が得られる。$1$-form の三つの係数 $P,Q,R$ が、$2$-form の反対称行列の三つの独立成分へ配置された。これが $\ast_{1\to2}$ の最も見える姿である。
注 (第2章の $\widehat{\epsilon}$ との関係)この $E_1,E_2,E_3$ は、付録Aで $\varepsilon_{1,\cdot,\cdot},\varepsilon_{2,\cdot,\cdot},\varepsilon_{3,\cdot,\cdot}$ として書き下した行列と同一である。$\ast_{1\to2}$ の本質は、レヴィ=チヴィタ記号 $\varepsilon_{ijk}$ の第一添字を $1$-form の成分方向に、残りの二添字を $3\times3$ 行列の方向に配置したものだ。第2章で体積測定器 $\widehat{\epsilon}$ として導入したあの三枚組が、ここでホッジ・スターとして再登場している。
D.2 $\ast_{2\to1}$ ——フロベニウス積による係数抽出
逆向きの $\ast_{2\to1}$ は、反対称行列から三つの独立成分を取り出す操作である。行列成分だけを見れば、$A=M_{23}$、$B=M_{31}$、$C=M_{12}$ を読むだけでよい。つまり、$2$-form
$$ \eta = A\,dy\wedge dz + B\,dz\wedge dx + C\,dx\wedge dy $$を表す反対称行列
$$ M= \begin{pmatrix} 0 & C & -B \\ -C & 0 & A \\ B & -A & 0 \end{pmatrix} $$から $A\,dx+B\,dy+C\,dz$ へ戻すには、この三成分を読めばよい。しかし、これを単なる「読み取り」として終わらせると、$\ast_{1\to2}$ との転置関係が見えにくい。そこで、係数抽出そのものを行列同士の内積として書き直す。
$3\times3$ 行列 $A,B$ の内積を
$$ A\cdot B = \frac{1}{2}\operatorname{tr}(A^T B) = \frac{1}{2} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} A_{ij}B_{ij} $$で定義する。
注 (トレース)$\operatorname{tr}$ は行列のトレース(対角成分の和)である。付録Bで外微分の行列表現を扱った際に登場した。$\operatorname{tr}(A^T B)$ は「$A$ を転置して $B$ を掛け、対角成分を足し合わせる」三手順の操作だ。$\frac{1}{2}\sum A_{ij}B_{ij}$ と等価だから、成分で考えたいときは後者の表式を使えばよい。
§6.2.3 で縦ベクトル同士の内積を $\mathbf{v}_1 \cdot \mathbf{v}_2$ と書いたのと同じ記法である。行列もまた「同じ種類のもの」どうしであり、対応する成分同士を掛けて総和をとる。$i$ と $j$ の二つの添字にわたって次々と縮約していくことから、これをフロベニウス積または連続縮約と呼ぶ。
注 (係数 $1/2$ について)フロベニウス積には $\operatorname{tr}(A^T B)$($1/2$ なし)を採用する流儀もある。しかし反対称行列では $M_{23}$ と $M_{32}=-M_{23}$ のようなペア成分の両方を拾ってしまい、内積が $2$ 倍される。本書では $1/2$ を定義に織り込む。これにより、$2$-form $M$ の自分自身との内積 $M\cdot M=M_{23}^2+M_{31}^2+M_{12}^2$ がそのまま §6.2.2 の「平行四辺形の符号なし面積の二乗」に一致する。
注 (抽象化の引力)§6.2.3 で公理的な内積に触れたが、こうして実際に手を動かしてみると、その簡潔さも分からなくはない。縦ベクトルの内積には $\mathbf{v}_1^T \mathbf{v}_2$ を、行列の内積には $\frac{1}{2}\operatorname{tr}(A^T B)$ を——表示が変わるたびに内積を一から定義し直すのは、考えてみれば相当に大変だ。これらをまとめて「内積とは、ある公理を満たす演算である」と一言で済ませたい欲求に飲まれそうな自分に気付く。それでも本書は最後まで表示を明示する方針を崩さない。ここまで来ると意地である。
D.1 の $E_1,E_2,E_3$ は、この内積について正規直交になる。実際、各 $E_k$ の非ゼロ成分は二つだけで、同じ $E_k$ どうしでは $\frac{1}{2}(1^2+(-1)^2)=1$、異なる $E_i,E_j$ どうしでは非ゼロ成分の位置が重ならない。したがって、
$$ E_i\cdot E_j=\delta_{ij} $$である。
この正規直交性を使えば、逆向きの変換 $\ast_{2\to1}$ は、$E_1,E_2,E_3$ との内積として書ける。$M$ を任意の $3\times3$ 行列とする。実際に $2$-form から来る場合、$M$ は反対称行列である。
$$ \ast_{2\to1}(M) = \begin{pmatrix} E_1\cdot M & E_2\cdot M & E_3\cdot M \end{pmatrix} $$$E_k\cdot M=\frac{1}{2}\operatorname{tr}(E_k^T M)$ は、上で定義したフロベニウス積である。成分で見ると、
$$ \begin{aligned} E_1 \cdot M &= \frac{1}{2}(M_{23}-M_{32}) \\ E_2 \cdot M &= \frac{1}{2}(M_{31}-M_{13}) \\ E_3 \cdot M &= \frac{1}{2}(M_{12}-M_{21}) \end{aligned} $$である。$M$ が反対称行列なら $M_{32}=-M_{23}$、$M_{13}=-M_{31}$、$M_{21}=-M_{12}$ なので、
$$ \ast_{2\to1}(M) = \begin{pmatrix} M_{23} & M_{31} & M_{12} \end{pmatrix} $$となる。したがって、$\ast_{2\to1}$ は反対称行列から独立成分を取り出す操作であると同時に、$E_k$ とのフロベニウス積による係数抽出でもある。
成分をすべて書き下せば、$\ast_{2\to1}$ は次のような「行列の横ベクトル」である。
$$ \ast_{2\to1} = \begin{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix} & \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} & \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \end{pmatrix} $$$\ast_{1\to2}$ では係数倍して足し合わせ、$\ast_{2\to1}$ では内積で係数を抽出する。縦と横、加重和と内積抽出が対応している。
D.3 $1$-form と $2$-form の場合の $\ast\ast=\mathrm{id}$
D.1 と D.2 を合わせると、$1$-form と $2$-form の場合の $\ast\ast=\mathrm{id}$ は、配列の正規直交性として見える。
$$ \omega=P\,dx+Q\,dy+R\,dz $$に対して、D.1 より
$$ \ast_{1\to2}(\omega)=P E_1+Q E_2+R E_3 $$である。これに $\ast_{2\to1}$ を作用させると、
$$ \begin{aligned} \ast_{2\to1}(\ast_{1\to2}(\omega)) &= \begin{pmatrix} E_1\cdot (P E_1+Q E_2+R E_3) \\ E_2\cdot (P E_1+Q E_2+R E_3) \\ E_3\cdot (P E_1+Q E_2+R E_3) \end{pmatrix}^{T} \\ &= \begin{pmatrix} P & Q & R \end{pmatrix} = \omega \end{aligned} $$となる。最後の等号では $E_i\cdot E_j=\delta_{ij}$ を使った。つまり、$\ast_{1\to2}$ で $E_1,E_2,E_3$ へ配置した三つの係数を、$\ast_{2\to1}$ が同じ $E_1,E_2,E_3$ との内積でそのまま取り戻している。
逆向きも同じである。反対称行列
$$ M=P E_1+Q E_2+R E_3 $$に対して、D.2 より
$$ \ast_{2\to1}(M) = \begin{pmatrix} E_1\cdot M & E_2\cdot M & E_3\cdot M \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} P & Q & R \end{pmatrix} $$であり、さらに D.1 の $\ast_{1\to2}$ を作用させれば、
$$ \ast_{1\to2}(\ast_{2\to1}(M)) = P E_1+Q E_2+R E_3 = M $$となる。
したがって、$1$-form と $2$-form の場合には
$$ \ast_{2\to1}(\ast_{1\to2}(\omega))=\omega, \qquad \ast_{1\to2}(\ast_{2\to1}(M))=M $$が成り立つ。$\ast_{1\to2}$ は三つの係数を $E_1,E_2,E_3$ へ配置し、$\ast_{2\to1}$ は $E_1,E_2,E_3$ との内積で係数を取り出す。正規化されたフロベニウス積を使えば、両者は転置的な関係にあることが、この配置と係数抽出の対応として見えている。
D.4 $\ast_{0\to3}$ と $\ast_{3\to0}$ の配列表示
ここまでで、$\ast_{1\to2}$ と $\ast_{2\to1}$ を、係数配列を移す変換として表示した。残るのは、$\ast_{0\to3}$ と $\ast_{3\to0}$ である。
$0$-form は一つの係数を持つ。一方、$3$-form は、完全に配列として見れば、三つの添字を持つ完全反対称な $3$ 階配列である。したがって、$\ast_{0\to3}$ は $1$ 成分を $3\times3\times3$ 成分へ広げる変換であり、$\ast_{3\to0}$ は $3\times3\times3$ 成分から $1$ 成分を取り出す変換である。
ここでは第2章でも現れた $\varepsilon_{ijk}$ を前面に押し出してその姿を見てみよう。
注 ($\varepsilon_{ijk}$ の正体)$\varepsilon_{ijk}$ は、第2章で現れた完全反対称な記号である。添字 $(i,j,k)$ が $(1,2,3)$ の偶置換なら $+1$、奇置換なら $-1$、同じ添字を含めば $0$ になる。直交デカルト基底では、完全反対称テンソルの成分として読める。本書では、その成分をホッジ・スターの表示として使う。
まず、$0$-form $f$ に $\ast_{0\to3}$ を作用させる。出力は $3$-form なので、三つの添字を持つ成分で書ける。このとき、$\ast_{0\to3}$ そのものの成分を
$$ (\ast_{0\to3})_{ijk} = \varepsilon_{ijk} $$とおく。
これを、$i$ を固定した三枚の $3\times3$ 行列として表示しよう。すなわち、$i=1,2,3$ のそれぞれについて、$(j,k)$ 成分を行列として並べる。
$$ (\ast_{0\to3})_{1jk} = \begin{pmatrix} 0&0&0\\ 0&0&1\\ 0&-1&0 \end{pmatrix}, $$ $$ (\ast_{0\to3})_{2jk} = \begin{pmatrix} 0&0&-1\\ 0&0&0\\ 1&0&0 \end{pmatrix}, $$ $$ (\ast_{0\to3})_{3jk} = \begin{pmatrix} 0&1&0\\ -1&0&0\\ 0&0&0 \end{pmatrix}. $$見ての通り、これは D.1 で使った反対称行列 $E_1,E_2,E_3$ そのものである。つまり、
$$ (\ast_{0\to3})_{1jk}= (E_1)_{jk}, \qquad (\ast_{0\to3})_{2jk}= (E_2)_{jk}, \qquad (\ast_{0\to3})_{3jk}= (E_3)_{jk} $$である。
ここで新しいことはほとんど起きていない。D.1 で見た反対称行列 $E_1,E_2,E_3$ が、今度は $i=1,2,3$ の三枚のスライスとして並んでいるだけである。$1$-form と $2$-form の場合は、三つの係数を三つの反対称行列の係数として読んだ。$0$-form と $3$-form の場合は、一つの係数から、その三枚すべてをまとめた完全反対称な $3$ 階配列を作っている。
実際、$0$-form $f$ に作用させると、
$$ (\ast_{0\to3}f)_{ijk} = (\ast_{0\to3})_{ijk}f = \varepsilon_{ijk}f $$である。これは、係数 $f$ を完全反対称な $3$ 階配列へ広げる操作である。
次に、逆向きの $\ast_{3\to0}$ を見る。これは $3$ 階配列を受け取り、一つの係数を返す変換である。その成分は
$$ (\ast_{3\to0})_{ijk} = \frac{1}{3!}\varepsilon_{ijk} $$である。
したがって、同じく $i$ を固定した三枚の $3\times3$ 行列として表示すれば、
$$ (\ast_{3\to0})_{1jk} = \frac{1}{3!} \begin{pmatrix} 0&0&0\\ 0&0&1\\ 0&-1&0 \end{pmatrix}, $$ $$ (\ast_{3\to0})_{2jk} = \frac{1}{3!} \begin{pmatrix} 0&0&-1\\ 0&0&0\\ 1&0&0 \end{pmatrix}, $$ $$ (\ast_{3\to0})_{3jk} = \frac{1}{3!} \begin{pmatrix} 0&1&0\\ -1&0&0\\ 0&0&0 \end{pmatrix}. $$つまり、$\ast_{3\to0}$ でも同じ三枚の反対称行列が使われる。違いは、全体に $1/3!$ が掛かっていることだけである。
添字 $(i,j,k)$ を一列に並べて一つの番号だと思えば、$\ast_{0\to3}$ は $1$ 成分を $27$ 成分へ広げる列ベクトルであり、$\ast_{3\to0}$ は $27$ 成分から $1$ 成分を取り出す行ベクトルである。したがって、正規化係数 $1/3!$ を除けば、両者は転置の関係にある。
$3$-form
$$ \eta = \eta_{ijk} $$に $\ast_{3\to0}$ を作用させると、三つの添字をすべて足し合わせる。
$$ \ast_{3\to0}\eta = \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} \sum_{k=1}^{3} (\ast_{3\to0})_{ijk}\eta_{ijk} $$したがって、
$$ \ast_{3\to0}\eta = \frac{1}{3!} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} \sum_{k=1}^{3} \varepsilon_{ijk}\eta_{ijk} $$である。これは、完全反対称な $3$ 階配列から一つの係数を取り出す三重縮約である。
係数 $1/3!$ は、D.2 のフロベニウス積に現れた $1/2$ と同じ役割を持つ。反対称行列では独立成分が二回ずつ現れるので、$1/2$ を掛けて重複を補正した。ここでは、完全反対称な $3$ 階配列の独立成分が $3!=6$ 回現れるので、$1/3!$ を掛けて重複を補正している。あるいは、$3$-form 同士の内積を $\langle\alpha,\beta\rangle = \frac{1}{3!}\alpha_{ijk}\beta_{ijk}$ のように定義すれば、正規化係数を内積側に吸収したうえで「$\ast_{0\to3}$ と $\ast_{3\to0}$ は転置の関係」と言える。
実際に、$\ast$ を二度続けて作用させると元に戻ることを確認しておこう。まず、$0$-form $f$ から始める。
$$ \ast_{3\to0}(\ast_{0\to3}f) = \frac{1}{3!} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} \sum_{k=1}^{3} \varepsilon_{ijk}(\ast_{0\to3}f)_{ijk} $$ここで $(\ast_{0\to3}f)_{ijk}=\varepsilon_{ijk}f$ だから、
$$ \ast_{3\to0}(\ast_{0\to3}f) = \frac{1}{3!} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} \sum_{k=1}^{3} \varepsilon_{ijk}\varepsilon_{ijk}f $$非ゼロになるのは、$(i,j,k)$ が $(1,2,3)$ の順列になっている $3!=6$ 通りだけである。そのとき $\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{ijk}=1$ なので、
$$ \ast_{3\to0}(\ast_{0\to3}f) = \frac{1}{3!}(3!)f = f $$である。
逆向きも確認しておく。任意の $3$-form は、三次元では独立成分を一つしか持たない。したがって、完全反対称な成分 $\eta_{ijk}$ は、ある係数 $h$ を使って
$$ \eta_{ijk} = h\,\varepsilon_{ijk} $$と書ける。
このとき、
$$ \ast_{3\to0}\eta = \frac{1}{3!} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j=1}^{3} \sum_{k=1}^{3} \varepsilon_{ijk}(h\varepsilon_{ijk}) = h $$である。したがって、
$$ (\ast_{0\to3}(\ast_{3\to0}\eta))_{ijk} = (\ast_{0\to3}h)_{ijk} = h\varepsilon_{ijk} = \eta_{ijk} $$となる。これで、$0$-form と $3$-form の場合にも $\ast\ast=\mathrm{id}$ が配列表現で確認できた。
結局、ここで見たことは D.1〜D.3 と同じである。$\ast_{1\to2}$ では三つの係数を三枚の反対称行列へ分配した。$\ast_{0\to3}$ では一つの係数を三枚の反対称行列すべてへ同時に分配した。$\ast_{2\to1}$ では反対称行列から係数を取り出し、$\ast_{3\to0}$ では三枚の反対称行列との三重縮約によって係数を取り出した。ホッジ・スターは、どの次数でも、基底を選べば具体的な配列として表示できる線形変換なのである。
D.5 まとめ
【ここまでのチェックポイント — 付録D】
- $\ast_{1\to2}$ は、三つの係数を反対称行列 $E_1,E_2,E_3$ へ配置する線形変換である。
- $\ast_{2\to1}$ は、反対称行列から係数を取り出す線形変換であり、$E_k$ とのフロベニウス積によって書ける。
- フロベニウス積 $A\cdot B=\frac{1}{2}\operatorname{tr}(A^TB)$ を使うと、$E_i\cdot E_j=\delta_{ij}$ となる。
- したがって、$1$-form と $2$-form の場合には、$\ast_{2\to1}(\ast_{1\to2}(\omega))=\omega$、$\ast_{1\to2}(\ast_{2\to1}(M))=M$ が成り立つ。
- $\ast_{0\to3}$ は、三枚の反対称行列 $E_1,E_2,E_3$ を重ねた $3$ 階配列として表示できる。成分では $(\ast_{0\to3})_{ijk}=\varepsilon_{ijk}$ である。
- $\ast_{3\to0}$ は、同じ配列に正規化係数 $1/3!$ を掛けたものとして表示できる。成分では $(\ast_{3\to0})_{ijk}=\frac{1}{3!}\varepsilon_{ijk}$ である。
- $1/2$ と $1/3!$ は、反対称成分の重複を補正する係数である。
- $0$-form/$3$-form の場合にも、$\ast_{3\to0}(\ast_{0\to3}f)=f$、$\ast_{0\to3}(\ast_{3\to0}\eta)=\eta$ が成り立つ。
- したがって、ホッジ・スター $\ast$ は、$0\leftrightarrow3$ と $1\leftrightarrow2$ の両方について、基底を選べば具体的な配列として表示できる線形変換である。