第2章:面積とは何か —— 平行多面体に潜む、符号のルール

§2.0 測定器と面積・体積、そして長さ

 第1章では、$dx, dy, dz$ を「ベクトルを1つ食べてスカラーを返す横ベクトル($1$-form)」として定義し、$\int f\,dx$ を行列作用の極限として読み直した。本章ではこれを拡張し、2つのベクトルを食べる面積測定器($2$-form)と3つのベクトルを食べる体積測定器($3$-form)を、同じ部品 $dx, dy, dz$ から発見する。

§2.1 小学校の面積の限界

多くの読者は「積分とはつまり面積を求める計算だ」ということを知っているだろう。 ところで、面積とはなんだろうか。改めて考えてみると、小学校以来、改めて定式化したことがないのではないだろうか。

ではその小学校での定式化とは何だったか。それは$1 \times 1$ の正方形(タイル)が、その図形の中にいくつ敷き詰められるか」という、極めて素朴な直感に基づいていただろう。

2次元の紙の上($xy$平面)に描かれた図形であれば、この「正方形の敷き詰め」はうまく機能する。例えば、2つの2次元ベクトル $\mathbf{v}_1 = (x_1, y_1)$ と $\mathbf{v}_2 = (x_2, y_2)$ が張る平行四辺形の面積 $S$ は次のように書ける:

$$S = \sqrt{(x_1 y_2 - x_2 y_1)^2}$$

しかし、我々が生きているのは3次元空間である。3次元空間の中で「斜めに傾いた平面」の面積を計算しようとしたとき、事態は少し大変である。

多くの読者は、高校数学で3次元空間のベクトル $\mathbf{v}_1 = (x_1, y_1, z_1)$ と $\mathbf{v}_2 = (x_2, y_2, z_2)$ が張る平行四辺形の面積を求めさせられた経験があるだろう。高校の記法を使って、次のように書ける:

$$ S = \sqrt{|\mathbf{v}_1|^2 |\mathbf{v}_2|^2 - (\mathbf{v}_1 \cdot \mathbf{v}_2)^2} $$

成分表示を考えると、ノートの幅を埋め尽くすような計算の末に、ようやく次の式にたどり着く。

$$S = \sqrt{(y_1z_2 - z_1y_2)^2 + (z_1x_2 - x_1z_2)^2 + (x_1y_2 - x_2y_1)^2}$$

その過程はなかなか長大であり、人生で何度もやりたくないほどには大変である。 なぜそんなに大変になってしまうのか? それは、我々が面積というものを、はじめに「2次元世界の中」で定義してきたからだ。3次元空間では、平面の「傾き」と、そこに載る2本のベクトルの関係とが絡み、角度の取り扱いまで含めて式が膨らんでしまう。

(未定義の語の先取り)ここでは「角度」や「内積」という言葉を使っているが、この段階では小学校以来の直感的な意味で十分である。形式的な内積の定義は第6章で与えるが、ここでの議論の理解には不要だ。

ここで我々は、がらりと考え方を変えよう。小学校以来の「面積の定義」を一旦棚に上げ「面積を出力する代数的な測定装置」をゼロから設計し直すのである。


§2.2 面積測定器が満たすべき「3つのルール」

設計の第一歩として、「$1\times 1$ の正方形だけ」を足掛かりにするのではなく、「2つのベクトルが張る平行四辺形」を基本に据えることにする。

(平行四辺形から始める理由)いままで「面積=正方形の敷き詰め」と数えていた読者には、なぜいきなり平行四辺形なのかという動機づけが見えにくいかもしれない。平行四辺形を基本に据えると、辺が直交する、という条件が緩和されることになり、これから組み立てるルールがすっきりする。正方形はその特別な場合として自然に含まれる。また積分を高次元へと拡張するときにも、こちらのほうが扱いやすい。

上記を言い換えると、我々が欲しいのは、2つのベクトル $\mathbf{v}_1$ と $\mathbf{v}_2$ を入力(インプット)として食べると、それらが張る平行四辺形の面積 $S$ を出力(アウトプット)として吐き出す、魔法のブラックボックス $S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2)$ である。

やや天下り的であるが、このブラックボックスが「面積測定器」としてまともに機能するためには、次の3つのルールを満たせばよい。原点から伸びる2本の矢印を隣り合う辺とする平行四辺形を思い浮かべながら確認してほしい。

2.2.1 ルール1:片方が伸びれば、面積も伸びる(比例関係)

もしベクトル $\mathbf{v}_1$ の長さが2倍になれば、作られる平行四辺形の面積も当然2倍になるはずだ。

$$S(2\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = 2 S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2)$$

同様に、2つのベクトルを足し合わせたものを入力すれば、面積も足し算に分解できる:

$$S(\mathbf{v}_1 + \mathbf{u}, \mathbf{v}_2) = S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) + S(\mathbf{u}, \mathbf{v}_2)$$

この2つの性質を合わせて線形性と呼ぶ。第2引数 $\mathbf{v}_2$ についても、同様に「スカラー倍」と「和に関する分配」が成り立つ——すなわち $S$ は両方の引数について線形双線形)である。

2.2.2 ルール2:重なれば、ペチャンコでゼロ(交代性)

これが最も重要だ。もし $\mathbf{v}_1$ と $\mathbf{v}_2$ が全く同じベクトルだったらどうなるか。平行四辺形は潰れてただの「線」になってしまい、面積はゼロになる。

$$S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_1) = 0$$

実は、この「同じならゼロ」というルールから、非常に奇妙な性質が導かれる。ルール1(線形性)を使って、$\mathbf{v}_1 + \mathbf{v}_2$ を両方の引数に入れてみよう。「同じならゼロ」だから:

$$S(\mathbf{v}_1 + \mathbf{v}_2,\; \mathbf{v}_1 + \mathbf{v}_2) = 0$$

左辺を線形性で展開すると:

$$S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_1) + S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) + S(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_1) + S(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_2) = 0$$

第1項と第4項はルール2で消えるから、残るのは $S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) + S(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_1) = 0$。すなわち:

$$S(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = - S(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_1)$$

入力するベクトルの順番を入れ替えると、面積の符号がマイナスに反転してしまうのだ。

(面積の符号1)「面積がマイナスになる? それは困る」と驚くかもしれない。しかし、物理学者は自然界の「向き」を無視しない。電流の向き、磁場の向き——すべてベクトルの「向き」が本質だ。だから「面積にも向き(向き付き面積)がある」という発想は、我々物理学者にはむしろ自然なのだ。この概念は後で曲面の「裏表」を区別したり、空間を貫く磁束や流体の流れを計算する際に絶対に不可欠なものとなる。今のところはこだわりすぎずに進んでほしい。

(面積の符号2)1変数でも、$f(x)<0$ の区間では $\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx<0$ となり得る——符号付き「面積」はそこで既に現れている。向き付き面積は、その考え方を2次元に持ち上げたものだ。

2.2.3 ルール3:基準の決定(規格化)

最後に、「どのくらいの大きさを1とするか」を決めなければならない。ここでは素直に、$x$方向の基底ベクトル(標準基底の一つ)$\hat{e}_x$ と $y$方向の基底ベクトル $\hat{e}_y$ が作る正方形の面積を $1$ としよう。本書の慣例どおり縦ベクトルで書けば

$$\hat{e}_x = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \hat{e}_y = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}$$

である。

$$S(\hat{e}_x, \hat{e}_y) = 1$$

(基底ベクトル(標準基底))デカルト座標の各軸方向に長さ $1$ の足を伸ばしたものを、基底ベクトル(標準基底)と呼ぶ、といって良いだろう。より進んだ定義は線形代数に任せる。

【ここまでのチェックポイント】

- 面積測定器は「2つのベクトルを食べてスカラーを返す」装置。3つのルール——線形性・交代性・規格化——を満たさなければならない。

- 交代性(同じベクトルを2つ入れるとゼロ)から $S(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2) = -S(\mathbf{v}_2,\mathbf{v}_1)$ が導かれ、面積は符号付きになる。

- 次節では、この3ルールを満たす代数的な装置を具体的に探す。


§2.3 面積測定器は「反対称行列」である

我々は今、この「平行四辺形」という図形のイメージを頭に描きながら3つのルールを設定した。しかし、一度ルールを決めてしまえば、もはや図形を思い浮かべる必要はない。「この3つのルールを満たす代数的な計算式」を探せば、それが面積の定義になるからだ。

簡単のために、まずは $z$成分が常にゼロのベクトル、つまり $xy$平面上にある2つのベクトルで考えよう。

$$ \mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix} x_1 \\ y_1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ 0 \end{pmatrix} $$

結論から言うと、この $xy$ 平面上のベクトルという制約のもとで、先ほどの3ルールを完璧に満たす量を出力する測定器は、線形代数の世界ではただ一つの自然な形に落ち着く。

それは、真ん中に特定の $3 \times 3$ 行列 を挟んだ、次のような「横ベクトル $\times$ 行列 $\times$ 縦ベクトル」の計算である:

$$ \begin{pmatrix} x_1 & y_1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ 0 \end{pmatrix} $$

実際に $\mathbf{v}_1$ と $\mathbf{v}_2$ を代入して計算してみよう:

$$ \begin{pmatrix} x_1 & y_1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -y_1 & x_1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ 0 \end{pmatrix} = x_1 y_2 - x_2 y_1 $$

ここで得られた $x_1 y_2 - x_2 y_1$ は、「2次元の面積公式」の中身そのものである。

(反対称行列と計量)我々は今、$\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$ (横ベクトル $\times$ 行列 $\times$ 縦ベクトル)という書き方をした。より進んだ立場、すなわち一般のテンソル解析や一般の多様体論の立場から見ると、計量を明示せずにベクトルを横に寝かせてしまうこの書き方は、少々お行儀が悪い。しかし本書は当面、標準デカルト座標に固定して進む。この範囲では問題ないので、ここではこれで押し進めよう。第6章で計量を導入した後に、改めてこの点を振り返る。

2.3.1 測定器の高次元化

繰り返しになるが、我々はここで、次の立場をはっきりさせる。 小学校で数えていたタイルの枚数に相当する素朴な直感を先に置くのではなく、いま定めたこの $3 \times 3$ 反対称行列に2本のベクトルを食わせて得られる量を、この測定器($xy$ 平面専用の面積測定器)が返す面積の成分——$dx \wedge dy$ に沿った読み取り値——だと定義するのである。三次元空間における向き付き面積のすべての情報を一つの数で尽くすわけではなく、あくまで一つの眼鏡が切り出したスカラーにすぎない。全体像は §2.4.6 で3種の測定器をそろえて述べる。

前章の $1$-form(一次形式)は、1つのベクトルを捕まえる$1 \times 3$行列」だった。 今目の前にある行列は、2つのベクトルを同時に受け取り面積を計算する$3 \times 3$反対称行列」へと進化したのである。

この行列(あるいは演算子)を、$2$-formと呼ぶことにする。

(二次形式と $2$-form)線形代数の「二次形式(quadratic form)」は、多くの場合「二次の多項式」を指す。ここでの $2$-form は微分形式の用語であり、上の quadratic form とは別物である。

さて、読者はこう思っているはずだ。 「なるほど、行列で面積が出るのは分かった。でも、この行列は第3行・第3列がゼロだから、$z$成分を完全に無視しているじゃないか。これではあの『3次元の大変な計算』の解決になっていないぞ」と。

まったくその通りである。 今我々が手にした $\begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}$ という行列は、3次元空間に3種類ある基本測定器の一つ——$xy$平面専用の面積測定器——に過ぎない。 言い換えれば、これは$xy$平面「だけ」を見る「偏った眼鏡」のようなものだ。空間には、$yz$平面を見る眼鏡や、$zx$平面を見る眼鏡も存在する。


【ここまでのチェックポイント】

- 面積測定器($2$-form)とは「2つのベクトルの絡み合い」を測る代数的な装置であり、測定対象である平行四辺形そのものではない。

- 面積測定器の正体は「反対称行列」であり、物理的ルールが行列の形を完全に決める。

- 3次元空間には3種類の「偏った眼鏡」(基底$2$-form)が存在する。


§2.4 面積測定器の内部構造

2.4.1 「2つの入力をさばく装置」の形を決める

§2.3 で、面積測定器($2$-form)の正体は真ん中に挟まった「$3 \times 3$ の反対称行列」であると述べた。しかし、あの行列は筆者から天下り的に与えられたものだった。

我々の次なる目標はこうだ: 「第1章で導入したシンプルな物差し $dx, dy, dz$ を部品として組み合わせて、あの複雑な行列をシステマティックに作り出せないだろうか?」 こうすれば、いまは $xy$ 平面専用の面積測定器しかないが、$yz$ 平面用・$zx$ 平面用の面積測定器も同じ部品から同じ手順で量産できるようになる。

これを実現するために、まずは「2つのベクトルを食べてスカラーを吐き出す装置」の外枠がどうなるべきかを考えよう。

第1章で、ベクトルを1つ食べる装置($1$-form)は「横ベクトル」で表現できることを見た(横 $\times$ 縦 $=$ スカラー)。 では、$\mathbf{v}_1$ と $\mathbf{v}_2$ という2つのベクトルを同時に食べて、しかも §2.2 のルール1(比例関係・線形性)を両方に対して保つ装置はどう書けるだろうか?

それは、2つのベクトルの間に真四角の表(行列)を挟み込む形、すなわち 「横 $\times$ 行列 $\times$ 縦($\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$)」 の形が自然に導かれる。これは線形代数の要請であるとして認めよう。我々が探すべきは、この真ん中に挟まる行列 $M$ の中身だ。

2.4.2 縮約——行列を消し去る操作

ここで、先に導いた「横 $\times$ 行列 $\times$ 縦」という形に、名前を与えておこう。

$\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$ を成分で書き下すと、

$$ \mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2 = \sum_{i=1}^3 \sum_{j=1}^3 v_{1i}\, M_{ij}\, v_{2j} $$

である。左辺には行列 $M$($3 \times 3 = 9$ 個の数字)と2本のベクトル($3+3=6$ 個の数字)があったが、右辺はただ1つのスカラーだ。$i$ と $j$ という添字が和によって「消し去られ」、15個の数字が1個の数字に縮まった。これは、縮約(contraction)と呼ばれる操作の一例である。

狭い意味での縮約は、「1組の共通添字について和をとる」操作である。もっとも単純な例は第1章の $1$-form だ。$dx(\mathbf{v}) = \sum_i (dx)_i v_i$ は、添字 $i$ について1回だけ縮約してスカラーを得ている。行列とベクトルの積 $\sum_j M_{ij} v_j$ も同様に、添字 $j$ について1回縮約してベクトル(添字 $i$ が残る)を得る操作だ。

広い意味での縮約は、これを複数回重ねたものである。いま見た $\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2 = \sum_i \sum_j v_{1i} M_{ij} v_{2j}$ は、添字 $i$ と $j$ の両方で縮約することで、行列と2本のベクトルからスカラーを作り出す——これは2回の縮約である。本章の後半(§2.5)では、3本のベクトルとレヴィ=チヴィタ記号 $\epsilon_{ijk}$ の縮約として行列式が現れる。付録Aではその全過程を追う。

(縮約の感覚)添字が消える——これが縮約の感覚である。$3 \times 3$ 行列は2つの添字(行と列)を持ち、ベクトルは1つの添字を持つ。縮約では、ベクトルの添字と行列の添字を「同じ文字」にして和をとることで、その添字が式から姿を消す。添字が2つ消えれば、残る添字はゼロ——すなわちスカラーになる。この「添字を消す」操作が、本書のあらゆる計算の根底にある。

2.4.3 欲しい結果からマス目を埋める

闇雲に探す必要はない。我々はすでに、出力されるべき「答え」を知っている。 $xy$ 平面の面積公式だ。

$$\text{欲しい出力} = x_1 y_2 - x_2 y_1$$

この出力を吐き出すためには、行列 $M$ のマス目にどんな数字を配置すればよいか? 読者も一緒に、$\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$ の展開式を想像しながらマス目を埋めるパズルをしてほしい。

$$ \begin{pmatrix} x_1 & y_1 & z_1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} ? & ? & ? \\ ? & ? & ? \\ ? & ? & ? \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ z_2 \end{pmatrix} $$
  1. $x_1 y_2$ を作る: $\mathbf{v}_1$ の $x$ 成分($x_1$)と $\mathbf{v}_2$ の $y$ 成分($y_2$)が掛け合わされる場所、すなわち「1行2列目」には $+1$ を置けばよい。
  2. $-x_2 y_1$ を作る: $\mathbf{v}_1$ の $y$ 成分($y_1$)と $\mathbf{v}_2$ の $x$ 成分($x_2$)が掛け合わされる場所、すなわち「2行1列目」には $-1$ を置けばよい。
  3. それ以外: 面積の式には $x_1 x_2$ や $z$ 成分などは一切登場しない。したがって、残りのマス目はすべて $0$ である。

こうして§2.3 で天下り的に登場したあの反対称行列が以下の形に一意に定まる:

$$ M = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$

2.4.4 テンソル積の導入

さて、この面積測定器の行列 $M$ をよく見ると、2つの部品の「引き算」でできていることがわかる。

$$ \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$

右辺の第1項は「1行2列目だけが $1$ の行列」であり、これは $\mathbf{v}_1$ から $x$ 成分を、$\mathbf{v}_2$ から $y$ 成分を抽出して掛ける($x_1 y_2$)という演算を表している。

ここで第1章の物差しを思い出そう。$x$ 成分を抽出する物差しは $dx$、$y$ 成分を抽出する物差しは $dy$ だった。 この2つの物差しを組み合わせて「$\mathbf{v}_1$ は $dx$ で測り、$\mathbf{v}_2$ は $dy$ で測って掛ける」という新しい演算子を作り、これを テンソル積 と呼び、$dx \otimes dy$ と書くことにしよう。

$$(dx \otimes dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) := dx(\mathbf{v}_1)\,dy(\mathbf{v}_2) = x_1 y_2$$

テンソル積 $dx \otimes dy$ というといかにも難しそうな響きだが、恐れることはない。行列表現の世界では、これは単に「1行2列目のマス目だけを $1$ にする」スイッチのオンオフのような操作に過ぎない。

(テンソル積の行列表現)数式が好きな読者のために書いておくと、$dx = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \end{pmatrix}$、$dy = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}$ としたとき、「前のベクトルを転置して縦にし、後ろの横ベクトルと隣り合わせに置き($dx^T dy$)、縦と横の成分を総当たりで掛け合わせて行列のマス目に配置する」という操作で$dx \otimes dy$の行列表現が機械的に得られる。おそらく手元の線形代数の教科書にも書いてあるだろう。

2.4.5 ウェッジ積の完成

これで準備は整った。 我々が導き出した $xy$ 平面の面積測定器行列は、「$x_1 y_2$ のスイッチ」から「$y_1 x_2$ のスイッチ」を引き算したものだった。

これを物差し($1$-form)の言葉で翻訳すれば、新しい演算子 ウェッジ積($dx \wedge dy$ の定義が自然に立ち上がる。

$$ dx \wedge dy := dx \otimes dy - dy \otimes dx $$

記号 $\wedge$ は英語で "wedge"、くさびを意味する。この定義をベクトルに作用させるとこうなる:

$$ (dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = dx(\mathbf{v}_1)\,dy(\mathbf{v}_2) - dy(\mathbf{v}_1)\,dx(\mathbf{v}_2) = x_1 y_2 - x_2 y_1 $$

見事に、第1章の物差し($1$-form)の組み合わせから、面積測定器($2$-form)をシステマティックに構成することができた。 テンソル積の引き算で構成したことにより、引数を入れ替えると符号が反転する(交代性)という §2.2 のルール2が、自動的に「仕込まれている」ことにも注目してほしい。

2.4.6 3つの基底$2$-form

同じ方法で、残る2つの「偏った眼鏡」も構成できる。

$yz$ 平面を見る眼鏡:$dy \wedge dz$

$$ dy \otimes dz - dz \otimes dy = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix} $$

$zx$ 平面を見る眼鏡:$dz \wedge dx$

$$ dz \otimes dx - dx \otimes dz = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$

これで全部だ!

では、3つの眼鏡を一つずつ一般のベクトルにかけて、それぞれ何を測るか見てみよう。

一般の3次元ベクトル $\mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix} x_1 \\ y_1 \\ z_1 \end{pmatrix}$, $\mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \\ z_2 \end{pmatrix}$ に対し、§2.4.5 の定義どおりに(第1引数に $\mathbf{v}_1$、第2引数に $\mathbf{v}_2$ を入れる)計算すればよい:

$$ (dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = y_1 z_2 - z_1 y_2 $$ $$ (dz \wedge dx)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = z_1 x_2 - x_1 z_2 $$ $$ (dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = x_1 y_2 - x_2 y_1 $$

各計算は引き算1回。ベクトルの向きがどうであれ、ウェッジ積の定義が自動的に正しい値を返す。

2.4.7 3つの数値の意味——各座標面への正射影

さて、読者は当然こう期待していただろう——「3つの眼鏡の計算結果を足し合わせて2つのベクトルを食わせればそれが小学校で習った面積になるのだろう?」と。

すなわち、こうだ。

$$ \text{小学校で習った面積} \stackrel{?}{=} (dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) + (dz \wedge dx)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) + (dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) $$

しかしながら、実は、そう単純ではない

§2.2 で面積測定器を設計したとき、$xy$平面に張り付いた話では確かに一つの数で足りた。しかし3次元空間の一般の平行四辺形では、向きは $+/-$ の2択では済まない。3つの基底 $2$-form(眼鏡)を通した測定値

$$A_{yz} = (dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2),\quad A_{zx} = (dz \wedge dx)(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2),\quad A_{xy} = (dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2)$$

は、空間の平行四辺形そのものの面積ではなく、各座標面へ正射影したときの符号付き面積を表している。

各座標面への正射影——これが3つの測定値の幾何学的な意味だ。$A_{yz}$ は平行四辺形を $yz$ 平面に正射影したときの符号付き面積、$A_{zx}$ は $zx$ 平面、$A_{xy}$ は $xy$ 平面への射影面積である。

(正射影)正射影とは、図形をある平面に垂直に押し潰したときにできる「影」のことである。光源が平面の真上から照らす状況を思い浮かべるとよい。たとえば $xy$ 平面への正射影では、図形の $z$ 座標を無視して $x,y$ 座標だけを取り出した像が得られる。第3章以降、本書では正射影のことを単にと呼ぶことがある。

では、これらの射影面積から平行四辺形そのもののスカラー面積 $S$ はどう取り出せるか? 答えは、ベクトルの長さと同じ構造をしている。

読者は、ベクトル $\mathbf{v} = x\hat{e}_x + y\hat{e}_y + z\hat{e}_z$ から「長さ(スカラー)」を取り出すとき、各成分の二乗和の平方根 $\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ を計算すればよいことを知っているだろう。3つの射影面積から平行四辺形のスカラー面積を取り出す操作も、これとまったく同じ形である。

$$S = \sqrt{A_{yz}^2 + A_{zx}^2 + A_{xy}^2} = \sqrt{(y_1 z_2 - z_1 y_2)^2 + (z_1 x_2 - x_1 z_2)^2 + (x_1 y_2 - x_2 y_1)^2}$$

これはまさしく §2.1 で「大変な計算」と呼んだ高校数学の面積の式と完全に一致する。我々はついに、代数的な測定器の設計から出発し、小学校の「タイルの枚数」にまで無事に帰還したのである。

(一般の$2$-form)3つの測定値の単純な和 $(dy \wedge dz + dz \wedge dx + dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2)$ も、立派に一つのスカラーを返す$2$-formである。しかしこの値はユークリッド面積(小学校で習った面積)とは一致しない。これを得るには「二乗和の平方根」という非線形な操作が必要であり、この非線形性こそが第6章で導入する計量(内積)の出番を予告している。ベクトルの長さ $\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ が内積 $\mathbf{v}\cdot\mathbf{v}$ の平方根であったことと、完全にパラレルな構造だ。

2.4.8 1次元の「面積」(長さ)と0次元の「面積」(点)

ここで少し視点を下げてみよう。「成分の二乗和の平方根」という操作に見覚えがあると言ったが、実は我々は1次元の図形(線分)に対しても、全く同じ「はかり」と「図形」の構造をすでに知っている。

第1章で扱った $1$-form($dx, dy, dz$)は、「ベクトルを1つだけ食べる」測定器だった。 はかられる図形は、ベクトルそのもの($\mathbf{v} = x\hat{e}_x + y\hat{e}_y + z\hat{e}_z$)であり、これは「1次元の向き付き面積(向き付きの長さ)」のデータに他ならない。ここから「スカラーの長さ」を取り出す操作が $\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ だった。

では、$0$-form とは何か? 「ベクトルを $k$ 個食べる測定器が $k$-form」なのだから、$0$-form とは「ベクトルを1つも食べない測定器」である。入力する方向(矢印)すら必要なく、その場に置くだけで1つのスカラー(温度や密度など)を返すもの——すなわち、ただの「スカラー場(関数)」のことだ。 $0$-form が測る「0次元の図形」とは単なる「点」であり、成分は1つしかなく、大きさはその絶対値をとるだけだ。標準的な数学の言葉では $0$-form は関数そのものだが、本書で「点を測る」と言うのは、入力方向を必要とせずその点に置くだけで値を返す、という性質を次元の系列に並べるための比喩である。

点(0次元)、線分(1次元)、平行四辺形(2次元)。すべては「ベクトルを $k$ 個食べてスカラーを返す」という同じ構造の反復だったのである。

§2.5 ではこれをさらに一段上げて、3次元の平行六面体(体積)に同じ構造を適用する。まとめると:

本書の舞台は3次元空間だから $k=0,1,2,3$ で打ち止めだが、「$k$-form が $k$ 本のベクトルを食べてスカラーを返す」という原理は $k$ によらない。このパターンが第3章の積分、第5章の外微分へと受け継がれていく。

2.4.9 クロス積との符合

大学の線形代数で「ベクトルの外積(クロス積)」を学んだ読者なら、次の3成分に見覚えがあるだろう。

$$\mathbf{v}_1 \times \mathbf{v}_2 = (y_1 z_2 - z_1 y_2)\,\hat{e}_x + (z_1 x_2 - x_1 z_2)\,\hat{e}_y + (x_1 y_2 - x_2 y_1)\,\hat{e}_z = \begin{pmatrix} y_1 z_2 - z_1 y_2 \\ z_1 x_2 - x_1 z_2 \\ x_1 y_2 - x_2 y_1 \end{pmatrix}$$

これは、いまの $dy \wedge dz$, $dz \wedge dx$, $dx \wedge dy$ のを、この順に並べたものにほかならない。

(不安な読者へ)見覚えがなくとも、本書ではウェッジ積をクロス積よりも先に発見した、というだけでこの先の理解に支障はない。

($2$-formとクロス積)$2$-formとしての面積と、3成分ベクトルとしてのクロス積のあいだには、後の章でホッジ双対と名付ける関係が成立する。デカルト座標ではこれらが同じ成分を持つことが必然的であることは第6章で改めて明らかにするとして、ここでは「向き付き面積の情報の持ち方の違い」程度に留めておこう。


【ここまでのチェックポイント】

- ウェッジ積 $dx \wedge dy := dx \otimes dy - dy \otimes dx$ は、テンソル積の引き算で反対称行列を自動生成する。$dy \wedge dz$, $dz \wedge dx$ も同様に構成され、3つの基底 $2$-form の線形結合で任意の面積測定器を組み立てられる。

- 3つの基底 $2$-form に2本のベクトル $\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2$ を食わせると、各座標平面($yz$, $zx$, $xy$)への正射影の符号付き面積 $A_{yz},A_{zx},A_{xy}$ が得られる。

- スカラー面積(タイルの枚数に相当する正の大きさ)は、射影面積の二乗和の平方根 $\sqrt{A_{yz}^2 + A_{zx}^2 + A_{xy}^2}$ で §2.1 の式に戻る(ラグランジュの恒等式)。ベクトルの長さの公式と同じ形の操作だ。この非線形性は第6章で導入する計量を予告している。


§2.5 体積測定器と行列式

前節で我々は、2つの一次形式(物差し)$dx, dy$ をウェッジ積で掛け合わせ、面積測定器($2$-form)$dx \wedge dy$ を組み立てた。面積測定器は「2つのベクトルを食べて、それらが張る平行四辺形の符号付き面積を返す装置」だった。

いよいよ体積だが、ここでも立場は同じである。まず標準基底 $\hat{e}_x,\hat{e}_y,\hat{e}_z$ を並べた単位立方体に体積 $1$ を対応させ(ルール3)、交代性・線形性で測定器を定める。小学校の「単位立方体がいくつ入るか」という正の体積に戻すには、やはり成分の二乗和の平方根(あるいは絶対値)が入る——面積のときと同じ構造だ。

自然な問いが湧く。 「3つのベクトルが張る平行六面体の体積を測る装置——体積測定器($3$-form)——も、同じ方法で組み立てられるだろうか?」

2.5.1 体積測定器が満たすべきルール

§2.2 で面積測定器を設計したときとまったく同じ戦略をとろう。まず「体積測定器 $V$ が満たすべきルール」を決め、その後でルールから装置の形を一意に導く。

体積測定器 $V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3)$ は3つのベクトルを食べて1つのスカラーを返す関数である。これに課すルールは、面積測定器の3ルールを3引数へそのまま拡張したものだ:

ルール1(各引数について線形) 片方のベクトルが2倍になれば体積も2倍。ベクトルの足し算にも分配する。

$$V(a\mathbf{v}_1 + b\mathbf{u},\; \mathbf{v}_2,\; \mathbf{v}_3) = a\,V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) + b\,V(\mathbf{u}, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3)$$

第2・第3引数についても同様。

ルール2(交代性 — どの2つを入れ替えても符号反転)

$$V(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_1, \mathbf{v}_3) = -V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3)$$

他のペアについても同様。§2.2 と同じ論法で、同じベクトルを2つのスロットに入れると必ずゼロになる——$\mathbf{v}_1 = \mathbf{v}_2$ なら $V(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_3) = -V(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_3)$ だから $V=0$ である。図形としては平行六面体が潰れるが、代数では交代性だけで「潰れてゼロ」が強制される。これが2次元の面積測定器のルール2と同じ構造だ。

ルール3(規格化 — 単位立方体の体積を1とする)

$$V(\hat{e}_x, \hat{e}_y, \hat{e}_z) = 1$$

2.5.2 ルールから形を決める——基底展開と消去

§2.3 で面積測定器の行列を導いたときと同じ手順を踏もう。3つのベクトルを基底で展開する:

$$\mathbf{v}_1 = x_1 \hat{e}_x + y_1 \hat{e}_y + z_1 \hat{e}_z, \quad \mathbf{v}_2 = x_2 \hat{e}_x + y_2 \hat{e}_y + z_2 \hat{e}_z, \quad \mathbf{v}_3 = x_3 \hat{e}_x + y_3 \hat{e}_y + z_3 \hat{e}_z$$

ルール1(多重線形性)により、$V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3)$ は $3 \times 3 \times 3 = 27$ 個の項に展開される:

$$V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) = \sum_i\sum_j\sum_k v_{1i}\,v_{2j}\,v_{3k}\; V(\hat{e}_i, \hat{e}_j, \hat{e}_k)$$

27項は多いが、ルール2(交代性)が大量の項を消してくれる:

$(x, y, z)$ の置換は全部で $3! = 6$ 通り。交代性により、偶置換は $V(\hat{e}_x, \hat{e}_y, \hat{e}_z)$ と同符号、奇置換は反対符号になる。ルール3で $V(\hat{e}_x, \hat{e}_y, \hat{e}_z) = 1$ と決めたから:

置換 偶/奇
$(x,y,z)$ 偶(0回交換) $+1$
$(y,z,x)$ 偶(2回交換) $+1$
$(z,x,y)$ 偶(2回交換) $+1$
$(y,x,z)$ 奇(1回交換) $-1$
$(x,z,y)$ 奇(1回交換) $-1$
$(z,y,x)$ 奇(1回交換) $-1$

したがって:

$$V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) = x_1 y_2 z_3 + y_1 z_2 x_3 + z_1 x_2 y_3 - y_1 x_2 z_3 - x_1 z_2 y_3 - z_1 y_2 x_3$$

線形代数を学んだ読者なら、3つのベクトルを列に並べた行列

$$\begin{pmatrix} x_1 & x_2 & x_3 \\ y_1 & y_2 & y_3 \\ z_1 & z_2 & z_3 \end{pmatrix}$$

行列式(determinant)に見えるはずだ。知らない読者も、いまこの6項の和を「行列式」と呼ぶと決めて先に進んでかまわない——上のルールからこの形に落ちた、という事実のほうが本質である。

ここで押さえたいのは次の一点だけだ。行列式は、単なる「成分を掛けて引く手続き」にとどまらず、3本の列ベクトルをこの順に食わせたときの「符号付き体積」という1つの数を返す演算子としても読める。第1章の $1$-form は「ベクトル1つ → スカラー」、§2.3 の $2$-form は「ベクトル2つ → スカラー」——行列式は「ベクトル3つ → スカラー」で、この系列をつなぐ。

面積測定器のときは反対称行列、体積測定器のときは行列式が立ち上がったが、いずれも、先に課したルールが代数的な形を決めたのだ。

(行列式の6項の順序)教科書によっては、いきなり「行列式の定義はこの6項」と置く。本書の流れでは、測定器のルール → 6項の順である。

2.5.3 $2$-form の行列式としての再解釈

実は、§2.4 で定義した $2$-form のウェッジ積にも、行列式が隠れていた。定義を振り返ろう:

$$(dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = dx(\mathbf{v}_1)\,dy(\mathbf{v}_2) - dy(\mathbf{v}_1)\,dx(\mathbf{v}_2)$$

右辺は、次の $2 \times 2$ 行列式に他ならない:

$$(dx \wedge dy)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2) = \det\begin{pmatrix} dx(\mathbf{v}_1) & dx(\mathbf{v}_2) \\ dy(\mathbf{v}_1) & dy(\mathbf{v}_2) \end{pmatrix}$$

つまり、横に「どの物差しか」、縦に「どのベクトルか」を並べた行列の行列式が、ウェッジ積の値だったのだ。

2.5.4 $dx \wedge dy \wedge dz$ の定義——行列式パターンの完成

この「行列式パターン」を素直に $3 \times 3$ に拡張すれば、体積測定器が手に入る。

定義: 3つのベクトル $\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3$ に対し、

$$(dx \wedge dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) := \det\begin{pmatrix} dx(\mathbf{v}_1) & dx(\mathbf{v}_2) & dx(\mathbf{v}_3) \\ dy(\mathbf{v}_1) & dy(\mathbf{v}_2) & dy(\mathbf{v}_3) \\ dz(\mathbf{v}_1) & dz(\mathbf{v}_2) & dz(\mathbf{v}_3) \end{pmatrix}$$

右辺の各成分は「一次形式 $dx, dy, dz$ がベクトル $\mathbf{v}_i$ から抽出した座標成分」だから、これはまさに:

$$= \det\begin{pmatrix} x_1 & x_2 & x_3 \\ y_1 & y_2 & y_3 \\ z_1 & z_2 & z_3 \end{pmatrix}$$

§2.5.2 で導いた $V$ と完全に一致する。体積測定器は、3つの物差し $dx, dy, dz$ のウェッジ積として構成できた。

線形代数で行列式を学んだ読者なら、この定義が §2.5.1 の3ルールを満たすことが容易に分かるだろう:

2.5.5 体積測定器のテンソル積表現——$3 \times 3$ ブロックを横に並べた配列

§2.4.4–2.4.5 で我々は、面積測定器 $dx \wedge dy$ がテンソル積の引き算 $dx \otimes dy - dy \otimes dx$ で構成でき、その結果が $3 \times 3$ の反対称行列であることを見た。体積測定器 $dx \wedge dy \wedge dz$ にも同じ手が使えるだろうか?

なぜここで敢えてテンソル配列を持ち出すのか——それは、ベクトル3本を食べて行列式を返す操作が、面積測定器のときとまったく同じ「縮約」の考え方で書けることを示すためである。§2.4.2 で定義したように、縮約とは共通添字について和をとって添字を消し去る操作だ。$1$-form・$2$-form・$3$-form はすべて、このたった一つの原理で動いている。

答えはイエスだ。ただし、2つの物差しのテンソル積は $3 \times 3$ 行列に収まったが、3つの物差しでは添字が1つ増えて $3 \times 3 \times 3 = 27$ 成分の3次元配列になる。添字を3つ持つこのような多次元配列は数学でも物理学でもテンソル(tensor)と呼ばれる。行列(添字2つ)はテンソルの特殊例であり、今回登場するのは添字を3つ持つ3階のテンソルだ。

ところで、3階以上のテンソルは、全成分を書き並べると紙面が爆発するので、さすがの物理学者もめったに配列表示はしない。代わりに成分 $\epsilon_{ijk}$ のように添字つきの代表で書いて、あとの計算は縮約に任せるのが通常のやり方だ。本節でもその流儀に倣い、必要に応じて成分だけを取り出して話を進める。

(テンソルの記法)テンソル代数では、しばしば $\epsilon_{ijk}$ という書き方そのものが「3階テンソル全体」を指す。本書では紛らわしいので、3階テンソル全体を $\widehat{\epsilon}$ と書き、1成分を $\epsilon_{ijk}$ と書き分ける。本書では行列表示(§2.3 の $3\times3$)と「成分1つ」を表記上区別する、ということだ。他書を読む際には気を付けてほしい。

(上付き・下付き添字)本書をのぞき見している詳しい読者のために言い訳しておく。より進んだ微分幾何やテンソル解析では、ベクトルと余ベクトル、基底と双対基底を区別するために上付き・下付きの位置で添字を書き分ける流儀がよく用いられる。本書はデカルト直交座標に固定して議論しており、この座標系では余ベクトル成分とベクトル成分の区別が表面化しないため、$\epsilon_{ijk}$ のようにすべて下付きで通す。

さて、この27成分の配列を反対称化(6つの置換を符号つきで足す)すると、27成分のうち6箇所だけが $\pm 1$、残りはゼロの配列が立ち上がる。§2.5.2 で導いた置換の表そのものだ——成分の取り方は次のとおりだ($\widehat{\epsilon}$ の $(i,j,k)$ 成分):

$$ \epsilon_{ijk} = \begin{cases} +1 & (i,j,k) \text{ が } (x,y,z) \text{ の偶置換} \\ -1 & (i,j,k) \text{ が } (x,y,z) \text{ の奇置換} \\ 0 & \text{添字に重複あり} \end{cases} $$

27個の数をどう並べて見せるか——良い方法がある。$3 \times 3$ 行列を3枚、横一列に並べたと考えるとよい:

$$ \widehat{\epsilon} \;{=}\; \begin{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix} & \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} & \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \end{pmatrix} $$

第1添字 $i$ が「左から何枚目の断面か」を指定し、各断面の中身は $j,k$ で添字づけされた $3 \times 3$ ブロックだ。

ベクトル3本を食べてスカラーに潰す——3重の縮約

式で書けば一発である:

$$ V(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) = \sum_i\sum_j\sum_k \epsilon_{ijk}\, v_{1i}\, v_{2j}\, v_{3k} $$

これは3回の縮約だ。添字 $i, j, k$ の3つすべてについて和をとり、27成分の配列と3本のベクトルからただ1つのスカラーを作り出す。§2.4.2 で見た $\mathbf{v}_1^T M \mathbf{v}_2$(2回の縮約)の自然な拡張である。

この3重の縮約を2段階に分解して眺めると、構造がさらによく見える:

左から $i$ 枚目 正体
$i=1$ $dy \wedge dz$($yz$ 平面の面積測定器)
$i=2$ $dz \wedge dx$($zx$ 平面の面積測定器)
$i=3$ $dx \wedge dy$($xy$ 平面の面積測定器)

この2段階の縮約で §2.5.2 の行列式の6項が一つ残らず再現されること、および数値検算は、付録Aで全成分を書き下して確認する。

2.5.6 具体例:平行六面体の符号付き体積

手を動かして確認しよう。§2.4.6 で面積を測った2つのベクトルに、3つ目を加えてみる:

$$\mathbf{v}_1 = \begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2 = \begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_3 = \begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}$$

体積測定器に投入する:

$$(dx \wedge dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3) = \det\begin{pmatrix}1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 0\end{pmatrix}$$

これを定義に従って計算すると:

$$= 1\cdot1\cdot0 + 0\cdot1\cdot1 + 1\cdot0\cdot1 - 1\cdot1\cdot1 - 0\cdot0\cdot0 - 1\cdot1\cdot1 = 0 + 0 + 0 - 1 - 0 - 1 = -2$$

(体積が負?)§2.2 の向き付き面積と同じで、順序によってはマイナスがあり得る。

試しに $\mathbf{v}_1$ と $\mathbf{v}_2$ を入れ替えてみよう:

$$(dx \wedge dy \wedge dz)(\mathbf{v}_2, \mathbf{v}_1, \mathbf{v}_3) = -(-2) = +2$$

2.5.7 スカラー三重積との符合

ベクトル解析で「スカラー三重積」を学んだ読者は、次の恒等式を知っているかもしれない:

$$\mathbf{v}_1 \cdot (\mathbf{v}_2 \times \mathbf{v}_3) = \det\begin{pmatrix}x_1 & x_2 & x_3 \\ y_1 & y_2 & y_3 \\ z_1 & z_2 & z_3\end{pmatrix}$$

右辺は、我々が定義した $(dx \wedge dy \wedge dz)(\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \mathbf{v}_3)$ そのものだ。

(内積記号の先取り)左辺の「$\cdot$」は内積の記号であり、ここでは小学校以来おなじみの「成分ごとの積の和」という意味で使っている。第6章で計量 $g$ を使った形式的な定義を与える。

2.5.8 体積測定器の出力——独立成分は1つ

我々が組み立てた $dx \wedge dy \wedge dz$ は、3つのベクトルを待ち構える体積測定器($3$-form)である。2本のベクトルを食わせた面積測定器と異なり、体積測定器に3本のベクトルを食わせた結果は、ただ1つの符号付きスカラー $V$ に収まる(§2.5.9 で見るように、$3$-form の独立成分は1つしかないからだ)。

そして「小学校の正の体積(スカラー体積)」が欲しければ、成分の二乗和の平方根($\sqrt{V^2} = |V|$)をとればよい。独立成分が1つしかないので、ただの絶対値になる。面積のときと同じく、この非線形な操作には計量が必要であり、第6章で改めて扱う。

2.5.9 $3$-form の「サイズ」——なぜ独立成分は1つだけか

面積測定器($2$-form)は $3 \times 3$ 反対称行列で表現でき、独立な成分は3つだった($dy \wedge dz$, $dz \wedge dx$, $dx \wedge dy$ の係数)。

では体積測定器($3$-form)の独立成分はいくつか? 基底 $3$-form として作れる候補を考えてみよう。3つの物差し $dx, dy, dz$ から重複なく3つを選ぶ方法は……1通りしかない。$dx \wedge dy \wedge dz$ だけだ(順序を変えると符号が変わるだけで、新しい基底にはならない)。

(ホッジ双対の伏線)面積のとき、3つの基底 $2$-form に2本のベクトルを食わせると3つの数値が得られ、スカラー面積を得るには非線形な操作(二乗和の平方根)が必要だった。一方、体積測定器 $dx \wedge dy \wedge dz$ の出力は最初から1つのスカラー $V$ に収まる。そしてこれは偶然ではない。$0$-form(スカラー場)の独立成分も1つ、$1$-form の独立成分は3つ、$2$-form の独立成分も3つ——つまり $1, 3, 3, 1$ と、両端から鏡写しになっている。この並びは、ホッジ双対という対称性の前触れだ。詳しくは後の章で。

2.5.10 測定器の階層——第2章で手に入れた武器の整理

ここで、我々が第1章から積み上げてきた「測定器」の全体像を俯瞰しよう。

§2.4.8 以降、とくに §2.5.8 と §2.5.9(独立成分の個数)までを通じて、次元 $k$ ごとに「$k$-form が $k$ 本のベクトルを食べてスカラーを返す」という同じ型が繰り返されることが見えてきた。データの成分の個数と、「小学校の面積 ${=}$ スカラー大きさ」の取り出し方を一枚の表にまとめると、次のとおりだ。

次元 ($k$) 測定器($k$-form) 測る対象 成分の個数 スカラー大きさの取り出し方
0次元 $0$-form(スカラー場 $f$) 1成分($f$) $\sqrt{f^2}$
1次元 $1$-form($dx, dy, dz$) ベクトル(線分) 3成分($x, y, z$) $\sqrt{x^2 + y^2 + z^2}$
2次元 $2$-form($dy \wedge dz$ 等) 平行四辺形 3成分 $\sqrt{A_{yz}^2 + A_{zx}^2 + A_{xy}^2}$
3次元 $3$-form($dx \wedge dy \wedge dz$) 3本のベクトルが張る平行六面体 1成分($V$) $\sqrt{V^2}$

【ここまでのチェックポイント】

- 体積測定器 $dx \wedge dy \wedge dz$($3$-form)は、3つの物差しのウェッジ積であり、その値は $3 \times 3$ 行列式に等しい。

- $0$-form(1成分)→ $1$-form(3成分)→ $2$-form(3成分)→ $3$-form(1成分)と、$1, 3, 3, 1$ の対称性がある。

- 次元が変わっても、$k$-form が $k$ 本のベクトルを食べてスカラーを返すという原理は同じ。スカラーの大きさは成分の二乗和の平方根で取り出す。

§2.6 本章のまとめと第3章への展望

【ここまでのチェックポイント — 第2章全体】

- 面積とは「2つのベクトルの絡み合い」を測る反対称行列($2$-form)であり、物理的ルールが行列の形を完全に決める。

- ウェッジ積 $\wedge$ は「テンソル積の引き算」で反対称行列を構成する演算。3つの基底 $2$-form から場の係数を載せて一般の $2$-form を組み立てる(係数の意味は後章)。

- 体積測定器 $dx \wedge dy \wedge dz$($3$-form)は、3つの物差しのウェッジ積であり、その値は $3 \times 3$ 行列式に等しい。反対称化した $\widehat{\epsilon}$(成分 $\epsilon_{ijk}$、レヴィ=チヴィタ記号)と縮約でも表せる(付録Aで全成分を確認)。

本章では、第1章で揃えた物差し $dx, dy, dz$ から出発し、面積($2$-form)と体積($3$-form)を代数的に組み立てるところまで来た。ウェッジ積は「幾何を直接描く」のではなく、測定器のルールを満たす式を機械的に生成するための道具である。

次章(第3章)では、これらの形式を曲線・曲面・領域に沿って集計する——すなわち線積分・面積分・体積分を、$1$-form / $2$-form / $3$-form の言葉で統一的に書き直す。さらに変数変換と引き戻し(pullback)が登場し、ヤコビアンが「影の計算」として自然に現れる。


付録A:体積測定器のテンソル積表現 — 全成分の計算

§2.5.5 で、$\widehat{\epsilon}$(成分 $\epsilon_{ijk}$)とベクトル3本との縮約で行列式に一致すると述べた。ここではその全過程を手計算で追い、一つ残らず確認する。

A.1 テンソル積の3引数への拡張

復習しよう。$dx \otimes dy$ の $(i,j)$ 成分は、$dx$ の第 $i$ 成分と $dy$ の第 $j$ 成分の積だった:

$$(dx \otimes dy)_{ij} = (dx)_i\,(dy)_j$$

3つの物差しへの拡張は自然だ——添字を1つ増やすだけ:

$$(dx \otimes dy \otimes dz)_{ijk} = (dx)_i\,(dy)_j\,(dz)_k$$

$dx = (1\ 0\ 0)$, $dy = (0\ 1\ 0)$, $dz = (0\ 0\ 1)$ を代入すると、$3^3 = 27$ マスのうち $(i,j,k) = (1,2,3)$ の1箇所だけが $1$、残り26マスはすべて $0$ になる。他の5つの並べ替え($dx \otimes dz \otimes dy$ など)もそれぞれ1箇所だけ非ゼロになる——$dy \otimes dx \otimes dz$ なら位置 $(2,1,3)$ に、$dz \otimes dy \otimes dx$ なら $(3,2,1)$ に $1$ が立つ。

A.2 反対称化——6つの配列を符号つきで重ねる

§2.4.5 で面積のとき $dx \wedge dy = dx \otimes dy - dy \otimes dx$(2項の符号つき和)だった。3つの物差しは デカルト座標における $dx, dy, dz$ である。その並べ替えは $3! = 6$ 通りだから、置換 $\sigma$ ごとに $(dx,dy,dz)$ を並べ替えた順にテンソル積 $\otimes$ でつなぎ、符号 $\mathrm{sgn}(\sigma)$ を付けて $S_3$ 上で和をとる、という意味である——すなわち次の6行の和を、置換の言葉で一行にまとめたものだ。

(対称群と置換の符号)$S_3$ は3次対称群(置換の集合)。$\mathrm{sgn}(\sigma)$ は偶置換なら $+1$、奇置換なら $-1$ と定める符号。

書き下すと:

$$\underbrace{dx \otimes dy \otimes dz}_{(1,2,3)\text{ に }+1} - \underbrace{dx \otimes dz \otimes dy}_{(1,3,2)\text{ に }-1} + \underbrace{dy \otimes dz \otimes dx}_{(2,3,1)\text{ に }+1}$$ $$- \underbrace{dy \otimes dx \otimes dz}_{(2,1,3)\text{ に }-1} + \underbrace{dz \otimes dx \otimes dy}_{(3,1,2)\text{ に }+1} - \underbrace{dz \otimes dy \otimes dx}_{(3,2,1)\text{ に }-1}$$

6つの「1箇所だけ非ゼロの配列」を符号つきで重ねると、27成分のうち6箇所だけが $\pm 1$ で、残り21箇所はゼロになる。§2.5.2 の置換の表と見比べてほしい——これが $\widehat{\epsilon}$ の各成分 $\epsilon_{ijk}$ を与える構成原理だ。

A.3 各成分の行列を書き下す

§2.5.5 で示した3つの成分行列を、ここでは1マスずつ確認しよう。

第1成分($i = 1$, $x$): 6項のうち $i = 1$ を持つのは $(1,2,3)$ に $+1$ と $(1,3,2)$ に $-1$。

$$\epsilon_{1,\cdot,\cdot} = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix}$$

第2成分($i = 2$, $y$): $(2,3,1)$ に $+1$ と $(2,1,3)$ に $-1$。

$$\epsilon_{2,\cdot,\cdot} = \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix}$$

第3成分($i = 3$, $z$): $(3,1,2)$ に $+1$ と $(3,2,1)$ に $-1$。

$$\epsilon_{3,\cdot,\cdot} = \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}$$

繰り返しになるが、これらはそれぞれ $dy \wedge dz$、$dz \wedge dx$、$dx \wedge dy$ の行列そのものである。

A.4 ベクトル3本を食わせる——縮約の全過程

ステップ1:添字 $i$ について $\mathbf{v}_1$ の成分で加重和(添字 $i$ を潰す)

$\mathbf{v}_1$ の各成分を重みにして3つの面積測定器行列を足し合わせる。3次元配列がベクトル1本を食べて $3 \times 3$ 行列に降りる:

$$M := \sum_i v_{1i}\, \epsilon_{i,\cdot,\cdot} = x_1 \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \end{pmatrix} + y_1 \begin{pmatrix} 0 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} + z_1 \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}$$

各成分を足し合わせると:

$$M = \begin{pmatrix} 0 & z_1 & -y_1 \\ -z_1 & 0 & x_1 \\ y_1 & -x_1 & 0 \end{pmatrix}$$

面積測定器3つを $\mathbf{v}_1$ の成分で構成した、「$\mathbf{v}_1$ 専用の面積測定器」が出現した。反対称行列であることに注目——$\widehat{\epsilon}$ の添字に対する反対称性が受け継がれている。

ステップ2:残り2本で行列を挟む(添字 $j, k$ を潰す)

あとは §2.4 で馴染んだ「横 $\times$ 行列 $\times$ 縦」だ:

$$V = \mathbf{v}_2^T\, M\, \mathbf{v}_3 = \begin{pmatrix} x_2 & y_2 & z_2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & z_1 & -y_1 \\ -z_1 & 0 & x_1 \\ y_1 & -x_1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_3 \\ y_3 \\ z_3 \end{pmatrix}$$

まず $\mathbf{v}_2^T \times M$(横 $\times$ 行列 → 横)を計算する:

$$= \begin{pmatrix} y_1 z_2 - z_1 y_2, & z_1 x_2 - x_1 z_2, & x_1 y_2 - x_2 y_1 \end{pmatrix}$$

最後に、得た横ベクトルと $\mathbf{v}_3$ の対応成分の積の和(横 $\times$ 縦 → スカラー):

$$V = (y_1 z_2 - z_1 y_2)\,x_3 + (z_1 x_2 - x_1 z_2)\,y_3 + (x_1 y_2 - x_2 y_1)\,z_3$$

展開して整理すると:

$$= x_1 y_2 z_3 + y_1 z_2 x_3 + z_1 x_2 y_3 - y_1 x_2 z_3 - x_1 z_2 y_3 - z_1 y_2 x_3$$

となり、§2.5.2 の行列式と、6つの項が1つ残らず一致する。